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テーマ「推しとの恋」
- ナノ -
耳かき屋ごくらく京

※夢主が京都弁(調べながら書きましたが、間違ってたらすみません!)
※ちょっとお下品











今日のような、奇妙な偶然が続く日もあるらしい。

度重なる出張で疲れていたのかもしれない。
“2F 耳かき屋ごくらく京”。
ビジネスホテルへ帰るために夜の繁華街を抜ける途中、俺の視界に飛び込んできたその看板。
働かない頭でその文字を読み、気づけば店内へと続く階段を上っていた。

これが一つ目の偶然。
二つ目は、その耳かき屋で俺の担当となったスタッフが、図らずも高校時代のクラスメイトだったのだ。

通されたのは6畳ほどの広さの、竹で編んだ間接照明が置かれた落ち着いた和室。
堅苦しいジャケットをハンガーにかけ、俺は寝転んで膝枕をされている。
膝を貸しているのは、着物に腰回りだけの白いエプロンをまとった元クラスメイト、ユフィ。
彼女は施術の準備をしながら小さく笑った。

「嬉しいわぁ。まさかリヴァイくんとここで会うなんて。」

居心地が悪い。
というか、ひとりで耳かき専門店に来たことが知り合いにバレて気恥ずかしい。
違うんだ、疲れ過ぎて魔が差しただけなんだ、そう弁解したいところだ。
しかし、ユフィは俺の恥じらいをすっぽり包み込むような微笑を浮かべ、俺の耳を撫でる。

「京都には仕事できてはったん?」

はんなりした京都弁。
高校の頃はそんな話し方だったろうか。
軽くお互いの話をするついでに聞いてみると、実は実家が京都で、東京の学校にいたのは両親の仕事の都合でこっちに引っ越していたからだったらしい。
中学から関東にいたせいで標準語を話せるようになったが、大学を卒業して京都に帰り、今ではすっかり京都弁に染まり直したのだとか。

近況報告をしている間、俺は耳つぼマッサージを施されていた。
絶妙な力加減が気持ちいい。
元クラスメイトに膝枕をされるという妙な状況だったが、疲れた体はマッサージによってすぐに脱力していった。

「あんまり人に話したことあらへんけど、わたし小さい頃から耳かきが得意やさかい、どうせなら得意なこと活かそ思てこの店で働かせてもろてんねん。」

「それでなんやけど──」と、ユフィは白いふわふわがついた竹の耳かきを持ち上げる。
そして、どこか艶っぽく微笑んだ。

「リヴァイくんになら、特別なの、やったげてもええよ?」

「特別?」

ユフィの声は高過ぎず低過ぎず、しっとりと耳を撫でるように心地よく、この身をすっかり委ねてしまいたくなる。

「そ。この店チェーンやからあんまり他のスタッフと違うことできひんねんけど、リヴァイくんになら秘密で一番気持ちええのやったげよか。せっかくやし。」

“秘密”で“一番気持ちいい”──
興味をそそられずにはいられない、どこか甘やかな提案だ。
思わず唾を飲み込んでいた。

「……頼む。」

いざなわれるがまま、そう答えていた。
ユフィは目を細めて微笑んでみせる。

さっそくまず右からと促され、膝枕したまま左を向く。
頬に当たる彼女の太ももは柔らかくて心地がよかった。

左手が外耳へ添えられ、耳かきの先端が近づいてくる気配がする。
他人に耳をいじられるのは初めてだが、なぜかユフィには絶対的な信頼を感じることができた。
そしてそれは音もなく、そっと耳の中へ入ってきて──

「──っ!」

耳かきの先端が皮膚に触れた直後、喉がひくんと震えた。
驚いたからではない。
そのタッチが気持ちよくて、だ。

耳の入り口付近をやさしく撫でるように耳かきは動く。
まるで愛撫されているようで、背筋がゾクゾクした。
いつから俺の耳は性感帯になったのだろう。
それとも単にユフィのテクニックのせいなのか。
混乱するほどに、体が彼女の耳かきさばきに反応してしまう。

「リヴァイくん、きれーな耳してはるんやねぇ。」

おっとりした声が降ってくる。
一方、耳かきの柄は産毛をソフトタッチしながら奥へ奥へと入ってきた。

「……く、」

先端が敏感なところをかすめ、とうとう声が出てしまった。
耳の中にもそういう色っぽいポイントがあるとは思ってもみなかったものだから、油断したのだ。

「声、出してええよ?今は二人っきりやさかいに……。」

彼女は少し声をひそめ、どうにもドキリとすることを言う。
うっかり下腹部が反応してしまいそうだ。
ただでさえ耳かきですでに息子が勃ちかけているというのに、勘弁してほしい。

そのとき、ふいに耳の中でカサリと音が鳴る。
激務のせいで耳掃除を怠った結果──もとい耳垢に、柄が触れたらしい。
ゾクン、とまた背中が震えた。

それだ!
それを取ってほしい!

思い出したように訪れるむず痒さ。
ふいに出現した敵──もとい耳垢へ、神経が集中する。
彼女は俺の思いをくみ取り、それに狙いを定めたようだ。

ガサ……、カリ、カリ……。
ゴソゴソ……。

細い穴の中での、小さな攻防。
しかし俺にとっては一大事だ。
勝手に足の指が、ぎゅうと丸まったり広がったりしてしまう。
耳の中で絶妙なタッチと、取れそうで取れない、そんなじれったいこそばゆさが大暴れしている。
あまりのことにまた声が出そうだ。
相手は出してもいいと言ったが、男が喘ぐのも情けないと、さりげなさを装って(うまく装えているのかは定かではないが)拳を口元に当ててこらえた。

ガサ……!

「っ!!」

取れたと確信した途端、俺の腰はびくんと痙攣してしまった。
突き抜けるような爽快感──
頭が真っ白になりそうなエクスタシー──
それらがない交ぜになって耳から全身に走り抜けたようだった。

俺は思う。
もう、これはセックスじゃなかろうか。
俺とユフィの、耳かきを介したセックス。

とにかくこれだけは言える。
今、間違いなく、一般的なコミュニケーションを越えるセッションを、俺たちは行ったのだと。

「はい、きれいになったで。」

そうして仕事を終えた竹の柄は耳の穴から出ていった。
このとき、俺は完全に気が緩んでいた。
彼女の最後の一手に意識がいかなかった。
スッキリして放心状態のところに、追い討ちをかけるように──

ふっ。

「ぐっ……!」

耳に息が吹きかけられたのだ。
穏やかな春の風のような愛らしい一吹きだったが、息子が完勃ちしていたら間違いなく発射していただろう。
とんでもない技だ。

動揺を表に出すことは阻止できたので、なんとか気を取り直し、耳かきは反対側に移る。
左側は、自分ではやりづらいせいか右よりも耳垢が溜まっており、ホジホジカリカリと丹念に掃除された。
ユフィは活き活きしながら作業に熱中し、俺は問答無用で穴の中をいじくり回され、声を抑えたりびくつく手足をコントロールしたりと大忙しだった。
左の仕上げもやはり、やさしげな一吹きだった。

「大丈夫?リヴァイくん。」

両耳の掃除が完了した頃には、魂が半ば口から出かかっているような気がした。
あぐらをかいてボケッと座る俺の顔を、横座りしたユフィが覗き込んでくる。
距離が近い感じがしたが、気にならなかった。

「気持ちよかったん?」

「……気持ちよかった。」

つやめく瞳やぷっくりした唇をぼんやり眺めながら、素直にそう答えた。
今頃気づいたが、彼女は高校時代より、かなりあか抜けていた。
着物姿も似合っている。
率直に言って、可愛い。

「せやったら、また来とおくれやす。」

ちょっとかしこまって見せ、目を細めてはんなり笑う彼女。
やっぱり、可愛い。

「あぁ。」

名残惜しげに、ジャケットへ袖を通す。
“耳かき屋ごくらく京”、絶対にまた来る。
東京に帰っても来る。


ここは色んな意味で、くせになりそうだ。




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