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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
smoking kiss




※煙草ネタ




「ご一緒してもいい?リヴァイ。」

演習場の片隅に、鉄製の土台に乗った四角いカンとベンチだけが無造作に置かれ、かろうじて喫煙所と呼ぶことができるその場所。
リヴァイは偉そうに片足を片膝に乗せてベンチに座り、いつもの仏頂面で白い煙を細く吐きながら、喫煙所に近付いてくるユフィを見た。

「勝手にしろ。」

「じゃ、勝手にする。」

この喫煙所を利用する人は少ない。
リヴァイが訓練後に一服するのによく使い、嗜む程度に吸うユフィもたまに便乗するのがいつもの風景だ。
そもそも煙草は高価なものなので、一般兵の給料で気軽に吸えるものではなかった。

「うー、寒い。春が待ち遠しいなあ。」

肩をすくませながら彼の隣に少しスペースを空けて座る。
訓練で火照っていた体も、じわじわと冬の木枯らしの冷たさに浸食されていくようだった。

「お前みたいなうるさいのが縮こまってくれるから俺は冬のままでもいいがな。」

「リヴァイの口の悪さはオールシーズンだね。」

「俺は正直なだけだ。」

そう言ってリヴァイは、人差し指と中指の中ほどで煙草を挟むいつもの持ち方で吸った。
その口もとを手で覆うような持ち方がユフィは好きだった。

さて自分も吸うかと、胸のポケットから煙草の紙箱を取り出すが。

「あれ?マッチが……。」

紙箱と同じところに入れているはずのマッチがない。
念のためズボンのポケットもまさぐってみるが、見当たらなかった。

「あちゃー、部屋に忘れてきちゃったかなぁ。」

ならば、と期待の眼差しで隣のリヴァイを見るが、彼は前のめりになって灰をカンに落としながらしれっと言った。

「マッチは俺もこれで切れた。」

「くそう……。」

がっくりと肩を落とすユフィ。
今日はもう吸わなくていいや、と紙箱を胸ポケットに戻そうとすると、リヴァイがこちらに身をのり出してきた。

「しょうがねぇやつだな。俺のこれ使え。」

「え……。」

口に少し短くなった煙草を咥え、くい、と上下させて見せる。
潔癖症の彼の言葉とは信じられないが、それが意図するものは。

(もしかして、リヴァイの煙草に私の煙草を押し付けて火を付けろってこと?)

「お前の想像の通りだ。早くしろ。」

「なぜ分かった!?ていうか……いいの?」

早々にしびれを切らし始めた彼の眉間にしわが寄る。

「何度も言わせんな。吸いたいんじゃないのか。」

「す、吸いたい!ちょっと待って……。」

ドキドキする心臓の音を感じながら、慌てて箱から一本取り出す。
動揺しているせいか、指先が震えた。
その間、彼は一度吸い、正面に向かって煙を吐いた。

ユフィは親指と人差し指で詰まんで、唇にはさむ。

「ん、いいよ。」

無言で再び、リヴァイは再び煙草をくわえた。
彼が身をのり出してくれていたので、ユフィも顔をゆっくりと寄せていく。
それはまるでキスをするような動きだった。

(ヤバい。想像以上に顔、近い!)

どんどん近付いてくる顔の距離はもはや二十センチもあるだろうか。
しかも、あろうことかリヴァイの煙草はすでに吸われて少し短い。
彼の顔を見ないようにして、慎重に煙草同士の先端をくっつけた。
お互い、火がつきやすいように軽く吸う。
煙草の先の、男らしく骨ばった指の少しかさついた皮膚まで見える。
こんなに近づいたことが今まであっただろうか。

ふと、止めておけばいいものを、ユフィは目線を上げてしまった。

「……っ。」

鼓動が一際大きく、ドキリと音を立てる。

たぶん、顔を寄せるときからずっと見られていた。
その、どこか挑戦的な強い瞳に。
至近距離でがっちりと視線が絡まってそらせない。
時が止まったように感じ、ユフィは呼吸するのを忘れた。

「……ついたぞ。」

見つめあったまま、距離もそのままで煙草を口からはずし、彼は煙をこぼしながら呟くように言った。

「ん?あ、ありがと!」

ユフィは我に返って勢いよくリヴァイから離れ、いつの間にか苦しくなっていた息を煙と共に吐き出した。
ドキドキが冷めやらぬまま、顔がきっと赤くなっていると思ったのでそっぽを向いて黙々と煙草をふかす。
が、実際はリヴァイから耳まで真っ赤なのが丸見えだった。

「ふ……。」

彼も体勢を戻し、ユフィのその様子を面白がっているように小さく笑う。

「たまにはこのやり方も悪くないかもな。」

「なんでよ……。」

「お前みたいなうるさいのが黙ってくれるからだ。」

何か言いたそうなユフィを遮るように、わしゃ、と彼女の髪を片手で乱暴に撫でた。
本当の理由は、色っぽい点け方で恥じらいをにじませる彼女を間近で拝めるから、だ。

リヴァイはいつもよりゆっくりしたペースで煙草を吸ったのだった。




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