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お酒のチカラ



リヴァイの補佐官であるユフィがまだ飲酒を経験したことがないと言うので、訓練のあとに二人で飲みに行くことになった。

「酒を飲んだら自分がどうなるか把握してないやつはガキと同じだ。初めての飲み会の翌朝、起きたら男の部屋に全裸で寝ていたなんてことになりかねないしな。」

「そ、それはのっぴきならない事態ですね……。」

カウンターの席に腰かけながら、ユフィはリヴァイの話を想像して身震いした。
彼もその隣に落ち着く。
二人が訪れたのは落ち着いた雰囲気の店で、物腰の穏やかな初老のマスターが酒を作ってくれるところだった。
うるさい客が来ないのでリヴァイもたまに足を運ぶのだという。

「何を頼む。」

「よく分からないんですが……飲みやすいのって何ですか?」

「ならとりあえずワインクーラーあたりにしとけ。比較的軽めだ。」

「じゃあそれにします。」

メニューをしかめっ面で眺めるユフィの代わりに、リヴァイはカクテルと自身のウィスキーロックを頼んだ。
マスターは「かしこまりました。」と紳士的に微笑んでドリンクを作り始める。

「お前、いい年こいて酒の席には出たことないのか?」

「呼ばれたときに限って体調が悪かったりして結局行ったことないんですよね。一人で飲もうとも思わないし。というか、いい年こいてって……私まだ二十代前半ですよ!」

「十分年期入ってるだろ。」

「もう!兵長に言われたくないですー。」

初めてのバーにどこかソワソワしているユフィ。
実はとっくに成人したお年頃だ。
とはいえ普段から可愛がっている補佐官の初めて(の飲酒)を拝めるわけで、少々あきれた風な口をきくものの、連れてきたリヴァイはまんざらではなかった。
男は女の「初めて」に立ち会いたがるものなのだ。

他愛もない話をしていると、マスターが「お待たせしました。」とそれぞれのコースターに流れるような動作でドリンクを置いた。

「わぁ!キレイ!」

マスターにお礼を言い、ワインの赤とオレンジジュースの橙色が織りなすグラデーションを興味津々に見つめるユフィに、リヴァイはグラスを持ち上げ傾けた。

「かなり遅いが、お前の補佐官就任祝いだ。」

「あ、はい!ありがとうございます!」

嬉しそうに顔をほころばせて、ユフィもグラスを両手で取って少し傾けた。
お互いのグラスが触れ、チンと小気味いい音が鳴る。
ユフィはこの所作ができただけでも、すでにお酒の嗜みを覚えたような満足感を覚えた。
リヴァイに馬鹿にされるだろうから口には出さないけれど。

「はぁ、美味しいー。」

「そうか。」

「ジュースみたいで飲みやすいですね。」

「調子に乗って飲み過ぎるなよ。」

そんなこんなでグラスが空になったときには、上機嫌なユフィの頬は桃色に染まっていた。
リヴァイは手の甲で頬杖をつき、時々ウィスキーをあおりながら補佐官の変化を見つめていた。

「酔ってきたか?」

「まだ大丈夫ですよ!すみません、これもう一つお願いします!」

「…………。」

二杯目に突入したユフィはニコニコと隣の彼を見る。

「ん?私の顔に何かついてますか?」

「いや、機嫌が良さそうで何よりだ。」

「そりゃそうですよ。兵長と二人きりでお酒が飲める日がくるなんて。嬉しいに決まってます!」

緩みっぱなしの頬を両手で包み、テーブルに肘をついて笑った。
ほどなくして再びワインクーラーが手元にやってくる。

(こいつ……すでに酔ってやがるな。無自覚か?)

大丈夫と言いつつ普段以上の笑顔を振りまく彼女。
ぐらりと甘く胸を揺さぶられるような感覚に、彼は思わずウィスキーを飲み干した。

酔っぱらいの言動とはいうものの、聞かずにはいられない。

「それは、どういう意味だ?」

「え?」

グラスに口をつけていたユフィはカクテルを一口ふくんで喉に流し込み、小首を傾けて照れたような笑みを浮かべた。

「そのままの意味です、よ……。」

心臓がどくどくとうるさいのはアルコールのせいか、目の前の女のせいか。
仕事中まとめている髪を下ろし薄く化粧をしているユフィは、酔いも手伝ってかなり色っぽく見えるのだった。
そんな自覚のない相手は、舌をちろりと出して唇を舐めた。

(やべぇな……。)

これ以上は目に毒だと、視線を手持ちのグラスに移す。
こういうことを想定していないわけではなかったが、案外自分の欲望のボーダーラインが低いことに驚いた。
それは相手が彼女だからかもしれない。

さらに彼の自制心をくずそうとするかのように、それは起こる。
リヴァイが足を組もうと身じろぎすると、すり、と相手の膝に彼のそれが当たった。

「っ、悪い。」

「いえ、大丈夫です……。」

急にしとやかになったユフィ。
二人を包む空気が急に色を帯びたのは気のせいだろうか。

その雰囲気にあてられたように――

「どうしたんだろ、私。むしろ兵長とはこうしてたい……なんて思っちゃいました。」

離された膝を、恥ずかしそうにしながらもそっと彼女からすり寄せた。

「!」

限界だった。

ユフィのグラスを取り上げて残りを一気に飲み干すと、自身でも分かる余裕のない声でマスターに声をかけた。

「会計を。」



***



朝起きたらホテルらしき部屋で男の人と全裸で寝ていた。

「えっ?」

起き上がってシーツを引き寄せ、思わず声をあげる。
すると、隣でもぞもぞと布がこすれる音がして、同じく全裸であろうリヴァイが目を覚ました。

「ん……、起きたか……。」

寝転んだまま気だるげに片肘を立てて頭を預け、ユフィをぼんやり見る。

「昨夜のことは覚えてるか。」

「…………いいえ?」

とにかく混乱して、寝起きのダルそうな彼を凝視した。
シーツからのぞく憧れの男性のたくましい肉体に、こんな状況なのにうっかりときめく。

「……お前、俺以外の男の前でもう酒は飲むな。」

「えっ?」

「上官命令だ。」

「え、えええええ!?」

言った通り、まさにのっぴきならない事態だった。




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