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ツーブロックの彼女



「お前が最近、俺の真似事ばかりしている女か。その行動の意図はなんだ?」

自室兼執務室にて、ガチガチに緊張しながら立っているユフィの前で、リヴァイはソファーにふんぞり返っていた。

「なんとか言え。」

「はっ、はい!私なんぞが上官の真似事という大変勘違いな行為をさらしてしまい、本当に申し訳ございません!」

盛大にびくついて、ユフィは素早く敬礼しながら謝罪の言葉を叫んだ。

「そうビビるな。拳は下ろして構わない。」

紅茶を飲みながら、じ、と観察してみる。
首には真っ白なクラバット、毛足の長めなツーブロックのヘアスタイル。
その二点だけをとっても、彼女が確かにリヴァイを意識していることが分かる。
おとがめを受けると思っているのか青ざめているその顔はなかなか整っていた。

『その子、顔もいいし訓練の成績も抜群だから、異性はもちろん同性の女の子からもモテるらしいんだ。まさに女性版リヴァイだね!』

このタレコミを持ってきたハンジの可笑しそうな様子を思い出した。

「お前を怒ったり罰したりはしない。が、質問には答えろ。なぜ俺の真似をする?」

ようやく叱られるわけではなさそうだと理解し、ユフィは落ち着きを取り戻しつつ、緊張で震える手をぎゅっと握った。

「はい、私は兵長に憧れて調査兵団に入りました。毎日どうやったら兵長のように強くなれるのか考えていたら、あるとき思い付いたんです。姿から戦い方まで、真似できることはとことん真似してみようと。」

話しているうちに、頬がほんのりと桜色に染まる。

「訓練での兵長の身のこなしや立体起動装着のさばき方も見て覚えました。でもまだまだ、到底兵長のようには……。」

「ほぅ。」

相手の様子をつぶさに観察していたリヴァイはギシ、と音を立ててソファーから立ち上がった。
ユフィは動揺した瞳で彼の動きを追う。
ゆっくりと、背筋のぴんと伸びた背後に回る。

「真似することは悪くない。むしろいい鍛練になるからな。」

心もとなさげに立つ彼女の背中をつぃ、と指で下から上へなぞった。

「あっ。」

小さく高い声を出し、飛び上がりそうな勢いで体が跳ねた。

「ちょっ!?何を……!」

「うるせえな。少し黙ってろ。」

鬱陶しそうに言い、さらに肩から二の腕にかけてを指先で撫でるように滑らせた。
ユフィは腰にゾクゾクしたものを感じて、声が漏れそうになるのを必死で我慢する。
くすぐったがりなのだ。

突然、しゅる、と音を立ててクラバットが引き抜かれる。

「へ、兵長!」

「妙な声、出すなよ。」

有無を言わせない声色で耳元へ囁かれ、ユフィはびくりと体を震わせて唇を噛んだ。
鎖骨から胸の膨らみにかかる部分を先程と同じような手つきでシャツの上からなぞり、片手は脇腹をゆっくりとさするように這わせた。

「……っ、んっ、」

彼女はその行為に耐えながら、うつむき加減で目を固くつむり、耳まで赤くしている。
リヴァイのどこか扇情的な動きに、体の中心が反応してじんじんするのを感じた。

(なんだか……くすぐったいけど、気持ちいい……。)

憧れの上官に触られ、恥ずかしくてたまらないのに、その胸の奥底ではもっと触れてほしいとも思ってしまう。
思いがけず、気持ちいいことに簡単に流されそうになる新しい自分をユフィは発見してしまった。

「お前、俺と同じブレードの持ち方の練習をしているようだな。」

言いながらパッと手を離し、肩を掴んでユフィにこちらを向かせるようにした。
これもハンジのタレコミの一部だ。

「あ、は……い。」

彼女はどぎまぎしながら、力の抜けた返事をしてしまった。

「いくら真似するのが効果的といってもな、人には適性ってもんがある。俺は体の体格上、逆手持ちもこなせるがお前の体だと通常の持ち方のほうが力を発揮しそうだと感じた。」

先ほど抜き取ったクラバットをユフィの手に握らせる。

「今日から俺の真似事は卒業だ。これからはお前だけの、お前本来の体の使い方を突き詰めろ。」

そして真っ直ぐに、見開かれた瞳を見つめた。

「特別に指導してやる。ユフィ、俺の班に入れ。」

「……は、はい!!喜んで!」

ユフィは一瞬ポカンとしたあと、目を輝かせて弾かれたように敬礼した。



***



「ところでさっきの行為は……?」

「あ?筋肉の付き具合をみていただけだが。」

しれっとリヴァイは紅茶をすする。

「……リヴァイ班に入れる人みんなにやるんですか?」

「んなわけねぇだろ。」

「え?」

「なんだ。物欲しそうな顔してるな。今晩続きをしてやろうか?」

「け、結構です!」

「ふん、何を想像してる?」

「何って……、くすぐったいのが苦手なだけで……!」

「あとお前、髪伸ばせ。立体起動に支障が出ない程度にな。お前は長い方が似合いそうだ。」

「あ、はい……。」

(なんだろう、このやりとり……。)

甘いむずがゆさを感じながら、ユフィは必要なくなったクラバットをいじるのだった。



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