愛妻家の新婚旅行 1
※現パロ
※R15くらい
青い空、白い雲、見渡す限りの水平線。
そして、はりつくような異国の暑さ。
空港から一歩を踏み出し、常夏を目の前にしたユフィは感動にうち震えていた。
「〜〜〜〜っ。」
プルプルしたまま夫を見れば、サングラスを外したリヴァイがその唇に軽くキスをする。
「お気に召したか?」
「うん!……うん!」
興奮が頂点に達した様子で、ぱっちりと目を見開いた新妻は大きく何度もうなずいた。
ここは日本人に人気の海外旅行先トップ5に入る超有名リゾート地。
アッカーマン夫妻はバカンスにやってきたのだ。
***
「うわあ、キレイ!見て!リヴァイも見て!」
「言われなくとも見えてる。」
ホテルへチェックインして部屋に荷物を置き、二人で散策しに出るや否や、ユフィははしゃいで走り出す。
それもそのはず、宿泊するホテルの目の前には、真っ白に輝くビーチと透き通った水色の海がはてしなく広がっていたのだ。
透明度が高く、遠浅で波は極めて穏やか。
日本の海ではお目にかかれない光景だ。
ビーチではいろんな国籍の人々が砂浜へ横になって日光浴をしたりカラフルなパラソルの下で昼寝をしたりしている。
熱心に砂の城を作って遊んでいる子どももいれば、親に付き添われながらカニを捕まえて遊ぶ赤ん坊もいた。
そこにはリゾート特有のゆったりとして平和な空気が流れていた。
ロングワンピースを浸さないように注意しながら、ビーチサンダルを濡らしてパシャパシャと遊ばせ、波と楽しそうに戯れているユフィ。
そしてその姿を眩しそうに見つめるリヴァイ。
今回、4泊5日の旅行を提案したのは彼だった。
彼女の両親の強い意向で結婚式は挙げたものの、新婚旅行はリヴァイの仕事の都合で行けずじまいだった二人。
その仕事も一段落し、ようやくまとまった時間を作ることができたのだ。
「それにしてもクソ暑いな。」
日差しも砂浜も容赦なくギラギラ照ってきて、サングラスをかけなおす。
リヴァイはVネックの白いTシャツと紺のハーフパンツ姿だが、いっそ全部脱いでしまいたくなるほど暑かった。
だからこの国では誰もが海に入るのか、と納得するほどに。
「向こうにバーがあるって書いてあったから行ってみる?ドリンクとフルーツ食べ放題なんだって。すごいよね!」
その暑さでさえも楽しんでいるかのようなユフィは笑顔で彼のそばにやってくる。
リヴァイは実のところ夏の暑さが少しばかり苦手だったが、その満開に花開く笑顔が見られるなら、この気候も苦にならなかった。
彼女の提案に賛成して、ホテルのロビーから直結しているプールサイドのバーへ向かった。
ユフィの言うとおり、アルコールを含む数種類のドリンク、そしてパイナップルやオレンジなどのフルーツが無料で提供されていた。
真っ昼間からビールを頼んだ夫へ「しょうがないなぁ」と笑いかけ、ユフィもオレンジジュースのグラスを傾ける。
バーを丸く囲むように造られた広いプールでは外国人の家族やカップルが水浴びを楽しんでいた。
地元民であろうホテルの男性スタッフが機嫌よさげに英語であいさつをしながら通りすぎる。
鼻先をかすめたのは、潮の香りを含んだぬるい風。
旅の実感が徐々に沸いてくる。
ここには自分たちを縛るものは何もない。
二人の新婚旅行は、始まったばかりだ。
***
言葉にできないほど美しい夕日をビーチで寄り添って眺め、ディナーはホテルのレストランで。
どうせならとびきりいいものを、そんな思いで予約した。
真っ白なテーブルクロスのひかれた二人がけのテーブルには、キャンドルの小さな炎がロマンチックに揺らめく。
彩り豊かな前菜、なめらかな冷製コーンスープ、分厚くジューシーなビーフステーキ、それに実の引き締まったロブスターテール。
ソムリエがすすめるワインとともに味わった。
「なんだか夢みたい……。」
頬を緩ませるユフィは、言葉通り夢見心地な瞳でリヴァイを見ていた。
彼女は深い青色のノースリーブワンピースに、ベージュの上品なサンダルを身にまとっている。
リヴァイの出で立ちは日本で妻が選び、紺のシャツにベージュパンツ、ブラウンのデッキシューズを合わせた。
ディナーのためだけにおめかしをし、訪れたレストランは気品にあふれ、いただいた料理は最高に美味しく、目の前には愛しい人。
「悪くないな。」
パートナーがいるだけで、異国への旅行はこんなにも新鮮で充足感に溢れている。
非日常の空気は二人を特別な気分にさせた。
だからいつもはできないことを、今夜は楽しみたかった。
「見て!貸し切りだよ。」
夜のプールに人気はなく、静かに揺れる水面が水中からの青いライトに照らされ、幻想的な雰囲気を演出している。
食休みしたユフィとリヴァイは水着に着替え、昼間訪れたプールへ一泳ぎしにやってきた。
ラッキーだね、と言いながらさっそく貸し切り状態の贅沢な空間をアルバムにおさめようとスマホを構える彼女。
そんなとき、これも非日常の雰囲気にあてられたせいだろうか、ふいに珍しく悪戯心がわいてきたリヴァイ。
その端末をひょいと取り上げてデッキチェアに置き、
「え、わ!?」
ビキニをまとう体を軽々と横抱きにし、
「きゃー!!」
リヴァイは青い水面にユフィもろとも飛び込んだ。
ばしゃんと上がる派手な水しぶき。
頭の上まで潜り込み、慌てて床へ足を付け、顔を突き出した。
「ちょっと、びっくりしたでしょ!?」
怒った台詞を言いつつ、笑いながら仕返しとばかりに手で水をかけてくる彼女。
「は、怒るのか笑うのかどっちかにしろ。」
後ろへ濡れた髪を流しながらリヴァイもあしらうように応戦する。
跳ねた水がライトに反射してキラキラと光った。
リヴァイは思う。
大人になってこんなに“遊ぶ”ことなどあっただろうか、と。
山積みの仕事に追われ、それを自分はこなさなければならなかったし、忙しくて帰りが遅くなっても目をつむってくれる妻を愛し、それ以外に使う時間は自分にはないのだと思っていた。
しかし子どものように水をかけあう今、それでいいと常夏の空気が許してくれている気がした。
そして彼女となら、そんな自分もありだと思えた。
「!」
飛沫を腕で防ぎながら、パチパチと瞬きを繰り返したユフィ。
仏頂面が常の夫だが、表情筋が少しだけほぐれているように見えたからだ。
その珍しい表情を発見して嬉しくなり、たまらなくなったユフィが彼に抱きつくことで、ささやかな戦いは終わったのだった。
「楽しいね。」
「そうだな。」
首に腕を回し、余韻でクスクス笑うその体をぎゅうっと抱きしめる。
ビキニは布の面積が少ないので、当然だが素肌がよく触れる。
水の膜と肌とが戯れるような不思議な感覚もあった。
愛しさと喜びとふれあう気持ちよさが男女を抱き合わせたまま離さない。
じっくりと時間をかけて抱擁し、顔を見合わせた。
青い光の中で見つめるお互いは普段と同じお互いであるはずなのに、胸が高鳴ってしょうがない。
水の粒を滴らせる彼女はますます艶っぽくなり、髪を後ろへ流した彼はことさらセクシーに見えた。
相変わらずプールは二人きりで、どんどん大胆になっていくのを止める者はいない。
しっとりと濡れた唇が、引き合うように重なった。
水の透明な味がして、すぐに消えていく。
唇を食み、舌でなぞり、舌を挿し込めば、世界は狭まり、噴水口から水の落ちる音も耳から離れていく。
反対に、熱のこもった吐息と湿ったリップ音だけが際立つように二人の間で満ちていた。
ふれあいに夢中になるあまり、ユフィは気づかなかった。
自分がプールの壁へ追い込まれていることに。
キスを続けながら、とん、と背中に固いものが当たる感触がする。
同時に、
「んっ。」
するり。
胸に当たっていた布が浮いたようにゆるくなる。
驚いたユフィが声を上げようとするも、後頭部を押さえられているせいで唇はキスから逃げられない。
そう、ビキニの胸当てを固定する背中の紐を、リヴァイがほどいたのだ。
さらに彼の片膝が脚の間に押し入ってきた。
壁と夫に挟まれ、身動きは不可能。
未だに舌は肉厚な相手のそれに絡めとられている。
近すぎてぼやける視界で見つけた灰色の瞳は細められ、熱かった。
熱帯夜のプール。
愛し合う男と女以外は誰もいない。
胸をかすめるのは、不埒な予感。
今宵のふたりはどこへ行く。
To be continued...
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