キスが一番うまいのは
「そういえばユフィ。最近どうなんだい、リヴァイとはうまくいってる〜?」
ここは調査兵団本部の一室。
幹部と親しいものの面子で酒を飲んでいると、へべれけになったハンジがリヴァイの恋人のユフィに絡みだした。
テーブルを挟んだ向かいに座るリヴァイは、「始まった。」とうんざりするように顔をしかめる。
恋人との関係を酒の肴にされるほど鬱陶しいものはない、とばかりに。
ユフィはリヴァイの隣でほんのり色づく頬を恥ずかしそうに緩ませた。
「ふふ、お陰さまで。」
「ねえねえ、リヴァイってこっちの方はどうなの?キスとか上手いの?」
鼻息荒く指で下品なジェスチャーをつくり、モブリットが「ハンジさん飲み過ぎです!」と横からなだめる。
この席に会した一同も、ユフィとリヴァイの浮いた話は日常のなかで気軽に聞けないことであり、正直かなり気になるところ。だが。
「だって気になイタァ!」
「ぎゃんぎゃんうるせぇクソメガネ。」
リヴァイが指で弾き飛ばしたピーナッツがハンジの額に命中することで、道は閉ざされたと全員が心の中で肩を落とした。
「えっとー、じゃあこの中でキスが一番うまいのは誰だと思います?」
ユフィが話をそらすように話題を振る。
「ミザクラの茎を口の中で結べるやつは上手いと聞くな。」
「それって、この前ナナバがそれやってみせてくれたっけ。」
「ふふ、それはミケもできるよね。」
がやがやと盛り上がり、話の輪が散らばり始めたところでユフィはお手洗いへ行くため部屋を出た。
用を済ませ、火照った頬を手で冷やすように包みながら女子トイレを出ると。
「わ、びっくりした!」
薄暗いなか、トイレを出てすぐの廊下の壁に、リヴァイが腕を組んで寄りかかっていたのだ。
「兵長?どうしたんですか?」
ふわふわする足取りで歩み寄り、その様子を眺めてくる彼の隣へ肩から壁にもたれた。
恋人同士の距離で、相手の整った顔を見つめ返してみる。
「ユフィ、お前は誰だと思う。」
「へ?もしかしてキスの上手い人ですか?」
目がそうだと言ったので、ユフィは照れたようにはにかむ。
「そんなの兵長に決まってますよ。」
リヴァイは腕組みをほどき、彼女の頬に手を滑らせた。
「へ、兵長?」
彼の変に甘い空気を察知して焦りを感じたユフィ。
ここじゃいつ目撃されてもおかしくないと抗議する前に、その唇は塞がれてしまった。
そして始まった、ゆっくりとしたついばむようなキス。
体を硬くしていた彼女の力が次第に抜けていき、おずおずと自らも唇を触れ合わせてきた。
「ん……。」
リヴァイはユフィの背を壁に押し付け、覆い被さるように壁に片手をつく。
そうするうちに、キスはより濃厚なものへ変わっていく。
数メートル先の部屋にみんながいるというのにもかかわらず。
「舌を出せ。」
「ふぁ、」
「もっとだ。」
もう逆らえない。
彼の官能的な口付けはいつも思考を麻痺させる。
無意識にユフィは彼の肩をぎゅっと掴んでいた。
「ぅ、あ……、」
差し出した舌を彼のそれでいやらしく愛撫され、ゾクゾクと背筋を震わせた。
それを見計らったかのようにリヴァイの膝がユフィの足の間に割って入り、股の中心をぐり、と擦り上げた。
「んぅ!」
声が響かないよう、その口内に彼の熱い舌がねじ込まれる。
絡まり、吸われ、なぞられ、もたらされる気持ちよさに彼女は体がびくつくのを止められない。
すでにその瞳はとろんとしており、口の端からこぼれた唾液が伝うのも気付いてないようだった。
「……っ、……っ、ん……、」
くちゅ、と唇の合間から漏れるいやらしい水音と、部屋からかすかに聞こえてくるみんなの笑い声が興奮をかき立てる。
さらに下からもグリグリともどかしい刺激が与えられるので、彼女はもう、いっぱいいっぱいになってしまう。
(こ、これ以上は……!)
ユフィの腰が抜けそうになる寸前で、リヴァイは唇と膝を離してやった。
「はぁ……はぁ……!」
彼はお互いの唇を繋ぐ糸を手の甲で拭うと、荒く息をしつつも物足りなさそうな彼女の耳元に、かすかな熱をはらんだ声色でささやいた。
「俺の部屋に戻るぞ。あいつらにはお前の気分が悪くなったから部屋に送ったと言っておけばいい。続きはそれからだ。」
「は、い……。」
点いてしまった欲の火種を下腹部に感じながら、鈍い思考の中、ユフィは再確認するのだった。
キスは絶対に兵長が一番上手だ、と。
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