HAPPY BIRTHDAY and…
side.リヴァイ
「ユフィ。お前今日、誕生日だろ?やるよ。」
「えっ、ジャンがプレゼントくれるなんて!ありがとう!」
「あ、僕も渡したかったんだ。ユフィ、誕生日おめでとう!これよかったら。」
「アルミンも!嬉しい!」
「あ?お前らもか。ほらよ。あやうく渡し忘れるところだった。ミカサからも受け取ったか?」
「エレンまで!うん、ミカサはランチのときに渡してくれたよ。ありがとう!」
仕事を定時で終えた帰りがけのユフィは、同期のエレン、アルミン、ジャンに声をかけられた。
今日が彼女の誕生日だからだ。
「今すぐ開けたいところだけど、このあと予定があって……。」
「ユフィ!」
しびれを切らして名前を呼べば、すぐさま振り返る。
エントランス横に立つ俺を見つけて目をパチクリさせたので、出入り口に向けてあごをしゃくった。
「あ、じゃあ行くね。帰ったらゆっくり見るから!ほんとにありがとう!」
彼女はそれぞれからもらった紙袋を左手にまとめ、右手で鞄を持ち、小走りでこちらへ向かってきた。
残された男どもはポカンとした顔をして俺たちを見ている。
まったく、目を離せばすぐこれだ。
***
side.同期
「おい……。見たかよ、今のリヴァイ課長。」
「すごい剣幕だったね……。ああいう顔を鬼の形相っていうのかな……。」
「俺たち殺されねぇよな?」
「はは、プレゼントの選択を間違わなければ大丈夫だよ、きっと……。」
***
side.ユフィ
「出せ、さっきの。」
ひどいしかめっ面のリヴァイに急かされ、会社を出た。
表でタクシーを拾って乗り込んだところで、彼は私に手のひらを向けてきた。
「さっきの?もらったプレゼントのこと?」
「それ以外に何がある。」
もらった紙袋3つを渡せば、すぐさま彼の“検閲”が始まった。
ジャンからはステンレス製のタンブラー、アルミンからは紅茶とクッキーのセット、エレンからはタオルハンカチ。
以上が、包みを開いて出てきたものだ。
「ほら、怪しいものなんて入ってないでしょ?」
「あぁ、よかった。仮にラブレターなんぞが入ってようものなら木っ端微塵にして突き返してやるところだった。」
「今どきラブレターはないと思うけどなあ。」
くすりとしながらプレゼントを袋へ戻す。
私とリヴァイは部下と上司であり、恋人同士でもある。
彼は心配症で、私がもらいものをすると必ず相手と中身をチェックしてくる。
バレンタインデーは義理でさえも異性に渡すことを禁止してくるし、男性とマンツーマンで話しているところを目撃されようものならその夜は事細かに詳細を話さなければならない。
束縛が厳しいとは思うが、私がリヴァイ以外の男性になびくことは絶対にないので、痛くも痒くもない。
私は素直に、彼の気が済むまで付き合うのだ。
検閲が無事に終わったタイミングで、タクシーはとある建物の前に停まった。
「この建物……テレビで紹介されてなかったっけ?」
「フレンチのレストランだそうだ。コースの予約をしておいた。」
「コース!?本当!?」
「誕生日だからな。」
私たちが訪れたのは、評価の高い店を紹介する特番で見たことがある、有名な三ツ星レストランだった。
灯りのトーンダウンされたムーディーな店内では、一つひとつのテーブルにキャンドルが灯り、皺ひとつない真っ白なテーブルクロスにはきちんと揃えられた銀のカラトリーがきらめいている。
空間を調和させるように薄く流れるのは、しっとりとしたクラシックだ。
オシャレで落ち着いた店内に心が踊る。
前もって言っておいてくれたら一旦帰ってよそ行きのワンピースを着る準備をしておいたのに、そう言うと「それじゃサプライズにならねぇだろ」と額を小突かれた。
幸い、今日着ているオフィスカジュアルなブラウスとスカートはそれほどこの場に浮いて見えることはなさそうだ。
新しいものを下ろしてきてよかった。
かさばる荷物を店員に預けると、丁寧に窓際の席へ案内され、さっそくシャンパンで乾杯だ。
細長いフォルムのグラスを傾け合う。
「素敵なお店に連れてきてくれてありがとうね。」
「礼には早い。まだ何も腹に入れてねぇからな。」
彼は目を細めて小さく笑う。
会社ではいつも仏頂面なのに、私の前だとよく笑ってくれるリヴァイ。
そういうところにも相手の愛を感じて、私の心もきゅんと呼応する。
「ふふ、確かに。」
シュワシュワの冷えた黄金色が、華やかな香りと甘酸っぱさを口内に満たす。
そうして、料理のカーニバルは始まった。
まずポテトとスモークサーモンの一口アミューズが運ばれてきて、前菜はオマール海老のミキュイ、サラダ仕立て。
次にフォアグラの茶碗蒸し。
魚料理は真鯛のポワレと続き、肉料理には黒毛和牛フィレ肉の網焼き。
メニューの名前を聞くだけでお腹いっぱいになっていまいそう(もちろん全部いただいたけれど)。
どれも舌に慣れない味だったが本当に美味しかった。
恋人とこんなにオシャレなお店で上質なディナーを食べられて、今日はきっと一生の思い出になるだろう。
最後のデザートは抹茶の冷製フォンダンショコラで、プレートにはチョコレートソースで“HAPPY BIRTHDAY”の文字。
ウェイターの人にも「おめでとうございます」と祝われ、嬉しくもあり、こそばゆくもあった。
そして、食後に香り高い紅茶をゆったり堪能しているときにそれは起こった。
ふいにリヴァイがスーツのポケットから青い小箱を取り出したのだ。
「!」
ふたを開けてテーブルに置かれたそれを見て、頭が真っ白になった。
こちらに向かって輝きかけてくるのは、なんと、一粒のダイヤモンドで──
「ユフィ、俺たちが付き合い始めてもうすぐ1年が経つ。結婚してほしい。」
「……!!」
これがドッキリでもなんでもないことは、彼の真剣な眼差しを見たら分かる。
付き合いだしてから1年めにして、プロポーズ、されてしまった。
まさかこんなに早くこの時が来るとは思わなかったものだから、驚きと喜びで胸が詰まり、呼吸がうまくできない。
下まぶたのふちがじわりと潤っていくのを感じる。
この涙はもちろん、嬉し涙以外の何物でもない。
なんとか息を吸い込んだ。
「私でよければ、よろしくお願いします……!!」
するとさすがのリヴァイも緊張していたのか、私の返事を聞いてふっと口もとを緩めた。
そして小箱から指輪を取り出し、私の薬指に優しくはめてくれたのだった。
「きれい……。」
夢みたいなきらめきを放つダイヤモンドのリング。
サイズもピッタリだ。
彼が、私を想いながらショップで選んでくれたのだろう。
ショーケースと睨めっこするリヴァイが目に浮かび、ついに我慢できなくなって、ほろりと涙が一粒こぼれてしまった。
「よく似合ってる。」
薬指を見つめる彼の、感慨深げな、ため息まじりの言葉。
ここがレストランじゃなかったら抱き付いて熱烈なキスを贈り合っているところだ。
私、結婚、するんだ。
お嫁さんになるんだ。
大好きなリヴァイのお嫁さんに。
本当に、夢みたい。
指輪を眺めながら上の空になりかけていると、リヴァイはテーブルの上に肘を乗せ、両手の指を組んだ。
唐突に、彼の放つ空気が引き締まる。
「さて、お前が人妻というカテゴリに入れば変な目で見てくるクソ野郎が絶対に出てくる。そんな変態予備軍の群れにお前を放っておくことに俺は堪えられねえ。いくら俺と同じ会社の同じフロアだとしてもだ。働かなくて構わねぇから寿退社してほしい。どうだ?」
私は二度、まばたきした。
その顔は真剣そのもので、まるで重要機密を扱う会議の最中のようだ。
ツッコミどころが満載である。
どうやら彼は、私に家庭に入ってほしいらしい。
「寿退社かあ……。」
他人事だと思っていたことが急に目の前に降ってきて、まだどこか自分事になりきれてなくて、それでも肌に馴染んでいく指輪のように着々と事実が体に染み込んでくる。
ずっとドキドキがおさまらない。
「そっか。今後について話し合わなきゃね。とりあえずこういうことって、会社にいつ言ったらいいのかな。」
「上の奴らには週明けに俺から言う。ユフィは俺の嫁さんになるんだってな。」
途端、ふわっと体が浮いてしまいそうになった。
「も、もう一回言って?」
無意識だったらしい。
自分で言ったリヴァイもその言葉にハッとしたようで、手のひらで口元を覆って視線をテーブルに泳がせた。
ここに無言で照れ合う怪しいカップルが一組。
でも、大切な記念となった日だから、どうか許してほしい。
リヴァイは軽く咳払いをしてから、私の目を見てこう言った。
「少し早いが、お前は世界で一番可愛い、俺の嫁さんだ。」
きゅーっと心が甘くときめく。
あふれる幸福感に溺れて昇天できるかもしれないとすら思った。
間違いない。
今日という日は私史上、最も素敵な誕生日であり、最も記憶に残る記念日だ。
そして、きっと二人ならこれからも特別な日を更新していける。
私、いいお嫁さんになれるよう、頑張るね。
料理は得意なほうじゃないけど、リヴァイの好きなものなら上手に作ってみせるからね。
アイロンがけも練習する。
掃除もしっかり覚える。
優しい旦那さんは「無理しなくていい」、なんて言ってくれるかもしれないけど。
末永く、あなたの隣で人生を歩んでいきたいから。
リヴァイ、私を選んでくれありがとう。
大好き。
end.
リクエストありがとうございました!
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