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会社の同期で両片想い
(互いに好きな人がいると勘違いしてなかなか素直になれずもハッピーエンドで甘々)
「気になってる奴がいる。」
居酒屋でリヴァイがそう切り出したとき、私たちは知り合って6年が経っていた。
「えー!そうなんだ!どんな人?」
得てして女子は恋愛トークが好きだ。
私も例にもれず、反射的にその話題へと食い付いていた。
心の裏側がつきりと小さく痛んだことに、気付かないふりをしながら。
彼曰く。
相手とは付き合いがそれなりにあるが、実は出会ったときから好意の種は芽吹いていた。
最近ようやくその人を好きだと自覚したらしい。
しかし男として見てくれている気がしないし、好きな男がいるような発言も見受けられる。
どうしたものか、とのことだ。
「なるほど。でもリヴァイからこんな浮いた話が聞ける日が来るなんてねぇ。」
「うるせぇよ。俺だって恋愛の一つや二つくらい……する。」
感慨深げに生ビールを傾けると、前に座る男はしかめっ面をして見せた。
これは照れ隠しの表情だ。
私とリヴァイは会社の同期で、入社したときから同じ部署で切磋琢磨してきた。
金曜の仕事終わりに飲みに行くことも珍しくはない。
仕事や人生設計、人間関係の話など、酒を片手にもう長いこと語り合ってきたが、彼が具体的な恋愛話を持ちかけてきたのはこれが初めてだ。
しかし興奮したような、切ないような心地を吟味している場合ではない。
彼は助言を求めている。
「そうだなぁ。食事に誘ってみるとか。時々一緒に飲んでるような関係だったら、たまにはお酒なしの食事も雰囲気が変わって意識してくれるかもよ。」
そんなアドバイスをして今夜は解散した。
帰り道を行く私の頭は酔っているはずなのに妙にクリアで、いつの間にか胸がずきずきと傷んでいた。
顔を上げると、ビルの隙間から見える夜空はただただ真っ暗だった。
あぁ。
私、やっぱりリヴァイのこと、好きだったんだ。
薄々感じてはいたが、仕事が面白くておざなりにしていた、この気持ち。
今ここでやっと判明した、恋心。
だけどもう遅い。
相手には想い人ができてしまった。
仕事人間だの行き遅れるだの、何度もからかわれたことをスルーしてきた罰だろうか。
やるせなさに苛まれ、私は盛大なため息を連発しながらとぼとぼと夜道を歩く。
こんなときは趣味で気を紛らわせよう。
最近ハマっているロックバンド“アタッカーズ”のギタリストの画像を眺め、それでも物憂げな息を吐きつつ、暗いアパートへ帰るのだった。
それからリヴァイと飲むときは件の相談に乗ることが多くなった。
想い人はなかなか彼になびいてくれないらしい。
「思い切って休日にでもデートに誘ってみたら?映画とかいいんじゃない?」
親身な建前の裏側では、本音の私がしょぼくれている。
なんで私、好きな人の恋愛相談に乗っているんだろう。
だって不機嫌になって嫌われたくないし。
相談してくれるポジションにいられるだけで嬉しい気持ちもあるし。
リヴァイには、幸せになってほしいし。
本音の私がやたらと健気で涙が出そうである。
「お前のほうはどうなんだ。好きな男がいるんだろう。」
ハンカチがあったらそっと目元を押さえているところだが、そんなとき、急にリヴァイがこちらに切り込んできた。
好きな男はあなたです、などとは流石に返せない。
そもそもなぜ恋していることがバレているのだろうか。
「なんでそう思うの?」
慎重に聞き返してみると、彼はなぜかむすりとして伏し目になった。
「昼間にペトラとよくそんな話をしてるじゃねぇか。」
なるほど心当たりがある。
画面の中の推しのことだ。
アタッカーズのギター担当エレンくん。
今日SNSに上げていたスタジオでの自撮りもきまっていた。
「あぁ、それね。ペトラとは推してるバンドが一緒でさ。好きな男っていうか趣味の話で盛り上がってるだけだよ。」
「……マジか……。」
リヴァイは肩透かしを食らったような顔をしている。
私がバンドに熱中していることがそんなに意外だったのだろうか。
あ、ジョッキが空だ。
ビール、お代わりしようかな。
そう思って店員へ声をかけようとしたとき、対面のリヴァイが箸をぱちんと置く音がした。
「おい、行くぞ。映画。」
「うん。いってらっしゃい。」
「お前とだ。」
「うん?」
「俺はお前を誘ってる。」
「え?」
「好きな男ができたのかと思ったらまさか芸能人だったとはな……。」
彼はやれやれといったふうに、額を指の背で擦った。
状況が、理解できそうで、できなくて、ぽかんとしてしまう。
「そういうことならもう遠慮はしねぇ。種明かしするとな、お前に相談していた内容は、すべてお前に向けたものだったってことだ。」
「……!」
確かに、ここ数週間のリヴァイとのやり取りを思い返してみる。
珍しく飲みではなく食事に誘われたことがあったが、いつものように飲みたい気分だったので強引に居酒屋に連行した。
メイクを褒めてもらった日があったけど、「なんか良いことでもあったの?」で終わらせてしまった。
以前より距離が近いのも偶然だろうと気にしないでいた。
彼は他の女子が好きなんだから、と、思い込んでいて。
それがまさか、私に対してのアピールだったなんて。
「……え、私てっきり……。」
リヴァイは思わず泣きそうになっている私をまじまじと眺め、
「その反応……自惚れてもいいのか。」
と薄く笑った。
恥ずかしいことに、気持ちが表へだだ漏れになっている。
赤面して口ごもって、こんなのリヴァイのことが好きだって誰が見ても分かってしまう。
現に、本人にはあっさりと勘づかれた。
「映画の返事は。」
もう建前はいらない。
本音の私が、ここぞとばかりに頷いてみせる。
「行く。行きたい!」
「よし。」
私たちは見つめ合って、同時に吹き出していた。
なんとお互いが、相手に想い人がいるのだと勘違いしていたのだ。
居酒屋を出て、並んで歩道を歩く。
酔っ払っているのもあってくすくす笑いが止まらない。
珍しくリヴァイも酔ったらしく、同じ雰囲気だった。
「いつまで笑ってんだよ。」
人通りの少ない通りに入って公園の前を通ったところで、戯れにフェンスに押し付けられた。
「ふはは!ごめん、なんかおかしくて。」
私の肩に額を置いたリヴァイも、く、と笑った。
「ったく、ややこしくしやがって。」
「お互い様でしょ。」
額を合わせてきた彼の目は、今まで見たことがない表情をしていた。
熱っぽいというか。
男っぽいというか。
「変なの。恥ずかしい。」
ずっと会社の同期だった。
仕事のやり方の違いからぶつかることもあった。
大きな案件を終えて互いの肩を叩き合うこともあった。
飲んだ後はいつも「また来週!」とさっぱり解散してきた。
過度にスキンシップをすることもない。
きちんとビジネスパーソンとして関係を築いてきた。
それが今や、相手がぼやけるほど急接近してしまっている。
変化した距離感、そわそわむずむず、する。
リヴァイの手が腰に回った。
「お前こんなに細かったのか。」
声のトーンを落とした彼が言う。
「……リヴァイはなんか、硬いね。」
引き寄せられてくっ付いたお腹は、自分とはまったく違った感触だった。
それはスーツの上からでは分からない、お互いの赤裸々なゾーン。
これからもっと知っていくことになる。
「は、やらしい言い方だな。」
「そういう意味じゃ……!」
途端に慌てて、それからまた同じタイミングで吹き出した。
都会の片隅でじゃれあう社会人が二人。
止める者は誰もいない。
そう、どんな世代であっても、両想いとなった直後の男女は無敵なのだ。
それに今夜は華の金曜、私たちは千鳥足。
これぞまさに完璧な週末。
映画館で何を観るか上機嫌に話しながら、無敵の二人は夜道をゆくのだった。
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お題の投稿ありがとうございました!