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兵長と病弱夢主






日光が飽和する部屋で、真っ白なベッドに座る、ミルク色のネグリジェを着た彼女。
肌の色も白くさらに髪の色も薄いから、うっかりすると光に溶けてしまいそうだと思った。

ベッドに腰掛け、差し出されたその手を取る。
相変わらず薄い手首だ。
力の強い自分が扱うには、いささか気を使う。

「忙しかった?」

半年ぶりに見た彼女は相変わらず体の線が細い。
それでも、前回会ったときより悪くなっているようではないので安堵した。

「調査兵団は慢性的な人手不足だからな。久しぶりになって悪かった。」

「いいの、手紙をくれたから」と彼女は微笑む。

「私も兵士になれたらいいのに。」

「その気持ちだけ受け取っておく。」

外の世界に恋焦がれている彼女。
病気がちの令嬢は生まれてこのかた、敷地の外には数えるほどしか出たことがないらしい。

彼女と初めて会ったのはこの屋敷で行われたパーティーだった。
ここの領主が兵団に出資をしていたので俺やエルヴィンもお客として招かれたのだ。
彼女も出席していたが、乾杯が終わるとすぐに広間から引っ込んでしまった。
後日、先方から娘が俺と話がしたがっているとの手紙があり、お茶に招かれ、その席で互いに一目で惹かれていたことを知る。
以来、時間を見つけては会いに来ていた。

「それにもっとリヴァイさんと恋人らしいことがしたいの。お散歩したり、一緒に買い物に出たり……。」

どうやら調子がいいようだ。
日によっては起き上がることすら難しいが、今日はよく話してくれるし声にも張りがある。
景色の変わらない部屋の中、本を読むのも飽き飽きしている様子の手の甲へ、口付けた。

「そのうちな。それに部屋の中でも恋人らしいことはできる。」

そして、白い人差し指にやんわりと歯を立てた。
途端に赤く染まる頬。
日に焼けていない肌には高揚が一層目立つ。

「リヴァイさん……。」

体調のいい彼女に甘え、反応に困っている相手のかすかに開いた唇に、自分のそれを重ねた。
小さくてふっくらとした、ささやかなぬくもり。
それは、ばたつく壁内の何にも干渉されていない、希有な感触だった。
この屋敷で静かに大切に守られてきた、やわらかさだった。

あまり過激なことをしても体にさわるだろうから、この辺で身を引いておくことにする。

「部屋の中でする恋人らしいことって、恥ずかしいのね。」

火照った頬や額を冷ますように片手で撫でながら、彼女は照れ笑いした。

「なんなら首に痕でもつけてやりたいが、お前の親父が卒倒しちまうだろうな。」

「それ、私も倒れちゃう。」

ついには彼女がくらくらし出したので、からかうのは本当にこの辺にしておいたほうがよさそうだ。

「体がよくなったら何でもしてやるし、どこへでも連れていってやる。」

「約束よ。わたし頑張って治すから。」

俺が向き合わなくてはならない戦いがあるように、彼女には彼女の戦いがある。
外界のきな臭い空気が晴れたら迎えにこよう。

二人で歩く大地は、息がしやすくなっているに違いない。



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お題の投稿ありがとうございました!


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