ナデシコが咲いたら | ナノ

08


「永井さん。」

お昼休み。私が図書委員の仕事を2年生の後輩の子とふたりでカウンターに座りながらしていると、不意に横から名前を呼ばれた。

「あれ、幸村君。珍しいね。何か探しもの?」

図書室で幸村君と会うなんて、滅多に無かったから思わずびっくりして尋ねる。周りを少し見てみたけれど、どうやら幸村君ひとりのようだった。
すると幸村君は私を見ながらいや、探しものとかそういうわけじゃ無くてと小さく笑い、そして少し間を置いてから

「ちょっと、君と話がしたくて。」

と、私と隣の後輩にだけ聞こえるか聞こえないかくらい小さな声で囁いた。

「えっと・・・私?」
「うん。やっぱり駄目かな?」

まぁ、今私図書委員の仕事中だしな・・・そう思って返事を渋っていると、隣に座っていた後輩から永井先輩、仕事は私がひとりでやりますから!行ってください!と、何故かものすごい勢いで押されてしまった。

「それで、話といいますと・・・。」

いつもの窓際の席に幸村君と向かい合う形で座ると、私はおずおずと尋ねる。
すると幸村君は笑って、そんなに緊張しないで良いよと言った。

「この間永井さんに教えてもらったケーキ屋、すごく美味しかったよ。」
「あ、ほんと?良かった。」
「特にお勧めって言ってたマカロン。」
「そうそう、あそこはマカロンがほんと美味しいんだよね。・・・どうだった?」
「うん、すごく美味しかった。」

そう言って幸村君はすごく綺麗に笑ったから、私も思わず笑顔になった。

「それで、」
「ん?」

君にお礼がしたくてね、そう言って幸村君は手に持っていた紙袋を私の目の前に差し出した。

「え、お礼だなんて、そんな!」

私はただ、この間の日曜日にテニス部にお邪魔して何故か練習の終わった後部室でブン太と私の買ってきたケーキでプチお茶会みたいなことになった時、他にも美味しいお店あるよって幸村君に教えただけなのに。
それなのにお礼って。そんな貰えないよ!

「良いんだ。これは俺があげたいんだから。」
「いやいやいや、良くないって!しかもこれそこのお店の袋じゃん!」
「うん、マカロン。」

紙袋だけで分かるなんてすごいね、と褒められ思わず照れてしまう。そんな、すごいだなんて。
・・・って、違うでしょ。

「とにかく、私はお店教えただけだからそんなお礼なんて貰えないよ。」
「どうしても?」
「どうしても。」

そんな哀しげな瞳で見つめられたって、駄目なものは駄目。
駄目なものは・・・駄目・・・。
なんかこう、良心が削られていく気分・・・そんな目で見ないでっ!

「永井さん。」
「は、はい。」

名前を呼ばれ思わず背筋を伸ばす。

「今日の放課後は空いてる?」
「う、うん、空いてるけど・・・。」

今日は図書委員の仕事はこの昼休みだけだから、放課後の予定は何も無い。
な、何だろう・・・なんか妙に緊張する・・・。

「じゃあ、またお茶会に誘われてくれないかな?」
「・・・え?」
「この間みたいに、部活の終わった後に部室で。駄目かな?」
「あ、いや、全然駄目じゃないけど。」

お茶会は全然嫌じゃない。むしろあの日曜日のはとても楽しかった。
なんかこう、普段話しをしたことの無い人たちとも話しが出来たり、お茶が飲めたり。・・・若干汗臭かった気がしたのはまあ気のせいとしておいて。
それになにより、あの場には・・・

「柳生も居ることだし。」
「ええっ!?」

突然柳生君の名前を出されて思わず私は大声を出した。
え、ええ、えええ!?

「な、なんでそこで柳生君の名前が出るの、かな?」

慌てて取り繕って尋ねてみる。が、もう遅い。
幸村君はふふ、と笑ってから、じゃあ今日の放課後に待ってるねと言って図書室を去っていった。

「ま、まさか・・・ね。」

私は背中に汗をかきながら、しばらく椅子から立ち上がることが出来なかった。
放課後のテニス部の部室でのお茶会。
まさか私はこれがそのうち毎週木曜日の恒例行事になるだなんて、考えもしなかった。





(20101005)

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