ナデシコが咲いたら | ナノ

03


「おや、珍しいな。」
「ん?」

本棚の整理をしつつ前から読んでみようと思っていた本に少し背伸びをしながら手を伸ばしていると、後ろから声をかけられた。
そのままの格好で顔だけを後ろに捻り誰だかを確認すると、あぁ柳君か。こんにちはと返事をした。
すると柳君も久しぶりだな、と言って小さく笑った。そして

「この本か?」

そう言いながら私の顔のすぐ横に腕をスッと伸ばし、私がさっきから散々取れなかった本を意図も簡単に手のなかに納めた。

「ほんと、背高いの羨ましいな。」

ありがとう、渡された本を受け取りながら最後に小さくそう呟けば、お前はそれくらいの身長が丁度良いと思うぞなんて言われてしまった。

「どこが丁度良いのさ。今みたいにちょっと高い場所の物は手が届かないし、電車とか埋もれてほんと苦しいし、背の高い人が前に座ると黒板なんてすぐ見えなくなるし。」

背が高い人には分からないかも知れないけどね!なんてちょっぴり棘のある声で言えば、柳君は少し驚いてからまた優しい笑顔に戻って、

「それでもお前はこれくらいの身長が丁度良い。現にこうやって頭を撫でやすい高さだからな。」

そう言って優しく微笑みながら私の頭を何度も何度も撫でるものだから、私はすっかり反論するに出来なくなってしまった。

「そういえば、さっきの珍しいってどういうこと?」

いつもブン太や仁王たちと下らない話をするのに使っている窓際の一番奥まったテーブルに柳君と向かい合う形で座ると、私は最初の言葉を思い出し尋ねた。
すると柳君は、あぁ、と言った後すうっと口角を上げ、知りたいか?と意地悪く聞いてきた。

「・・・別に、良いもん。」
「お前が左耳を触りながら喋る時は嘘をついている確立100%だ。」
「う、」

無意識に伸びていた左手を膝の上まで下ろすと、私は今度は素直に教えて下さいと言った。

「いや、まあそんなに大したことではないがな。お前が推理小説を読むのが珍しいな、と思って。」
「・・・あぁ、まあ、確かに。」
「大体読んでいるのは恋愛小説かファンタジー、あぁ前にホラー小説を挿絵だけ見て怖くて止めるなんてことはあったがな。」
「あ、あれは仁王に面白いって勧められて、開いてみたら丁度怖い絵がバーン!って出てきて・・・。」
「まあ、はめられたんだろうな。」

お前は疑うって事をしないから簡単に引っ掛かるからな、そう言って柳君は小さく笑った。

「で、」
「ん?」
「どうして今回は推理小説なんだ?」

昔推理小説は苦手だと言っていなかったか?そう柳君に尋ねられ、うんとひとつ頷く。
確かに私は今まで推理小説をちゃんと最後まで読んだことは無い。
推理小説=頭を使って読まなきゃいけないというイメージがあって、どこか敬遠していたから。
けれど、いざ読むようになったらこれが案外面白くて。

「そういえば、アガサクリスティは柳生も好きだったな。」
「え、何?」
「いや。」

机の上に置かれた『オリエント急行の殺人』の本を見ながら柳君が何か呟いたが、その一言が私に聞こえることは無かった。

「今度面白い推理小説をいくつか貸そうか?」
「え、本当?わ、お願いしたい!」
「何冊か見繕っておこう。」
「ありがとう!」

では、そろそろ部活に行かなくてはな。そう言って柳君は席を立ち上がって最後にまた私の頭を撫でて去っていった。
今度お礼にケーキでも作ってあげようかな。柳君にだから、誰かさんの時とは違って甘さ控えめにして。





(20101002)

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