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もしもスタイリストだったら


「「「ありがとうございましたー。」」」

カラン、とベルの音を1つ鳴らして、本日最後のお客様が扉から出て行くのを宍戸と忍足、そして跡部の3人で見送る。
そしてその後ろ姿が見えなくなると、宍戸は長い伸びをし、忍足は眼鏡を外して目頭を抑え、跡部はどかりと椅子へ座った。

「あー、やっと終わったー・・・。」
「ほんま、今日は長かったなぁ。」
「滑り込みでカラーとカットの客が入ったからな。」

ま、その分今日の売り上げは悪くないがな。そう言って跡部は眼鏡をかけパソコンに向かいキーボードを叩いていた。

「あ、そう言えば跡部。」

床のモップ掛けをしながら、宍戸が跡部に声をかける。するとパソコンの画面からは一切視線をずらさずに、跡部があん?と一言返事をした。

「長太郎のことだけどよ、」
「あぁ、宍戸が教育任されてたアシスタント君やな。」

カラー剤の在庫表にチェックを入れながら、忍足が話に加わる。すると跡部から鋭い視線が一瞬、忍足に注がれた。
その視線に気が付いたのか、忍足は苦笑いしながらえぇやん話に混じったって、と肩をすくめながら呟いた。

「で、鳳が何だ?」
「あ、あぁ。」

モップ掛けが終わったのか、棚に寄りかかってた宍戸が組んでいた腕を解いて跡部を見た。

「そろそろカットの試験受けさせてやりたいんだけど。」
「・・・ほぉ。」

カットの試験。アシスタントからスタイリストになるために、必ず通らなければいけない道。

「せやけどあの子、お客さんの前やとまだまだ緊張してうまくコミュニケーション取れてへんやろ?」
「そ、それはあるけどよ・・・でも、カットとかスゲー練習して、なかなか良い腕持ってんだよ。」
「けど、それだけでやってける程甘くないで?」

少し厳しい言い方かもしれないが、でも忍足の意見は正しい。
いくら腕が良くたって、それだけじゃこの業界は生きていけない。また来たいと思わせる+αが無ければ、美容院なんてサービス業はあっという間に潰れてしまう。

「・・・忍足の意見はもっともだな。」

黙ってふたりの会話を聞いていた跡部が、口を開いた。眼鏡を外して宍戸と忍足それぞれを見ると、ギッと音を立てて椅子へと深く寄りかかった。
何を言われるのだろう、と宍戸が少し身構えて背筋を伸ばした。
ゴクリ、と喉が鳴る音がBGMを切った静かな店内に響く。

「・・・が、一度鳳の腕前を確認しておくのも良いだろう。」
「・・・え?」

予想外だったのか。宍戸はぽかんとした表情を浮かべながら、それは間抜けな声を出した。

「実施は一週間後、カットモデルは勝手に探しとけ。」
「え、あ、跡部それって・・・」
「あん?最後の点検が終わってんならさっさと帰るぞ。明日も遅く無いんだ。」

そう言うと跡部はガタリと椅子から立ち上がり、スタッフルームへとカツカツと足音を響かせながら歩いて行った。
しばらくその場から動けなかった宍戸だが、後ろからぽんと優しく忍足に肩を叩かれて、ようやく状況を飲み込んだ。

「ま、がんばり。」
「おう。っつっても、頑張るのは長太郎だけどな。」

それもそうやな。と互いに顔を見て笑うと、おら電気消すぞと跡部の声が響いた。
その声がいつもより少し優しそうだったことに、宍戸と忍足は気が付いたのかまた顔を見合わせて小さく笑った。




おまけ


「あ、宍戸。お願いあるんやけど。」
「ん?何だ?」
「今度宣材写真のモデルになってくれへん?」
「は?何で俺?」
「なかなか髪長くて綺麗な子が見つからへんねん。顔は写らんようにするから。」
「あー・・・まあ良いけど。」
「よっしゃ、頼むで。」
「・・・ちなみに、髪型どうするつもりなんだよ。」
「どうするって、ゆるふわパーマ決まってるやろ。」
「お断りさせて頂きます。」




(20110122)


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