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1031後編


「いった・・・」

全速力で走って振り切れたのはいいけど、やっぱりなれない靴は駄目だったみたい。
見事に靴擦れして踵が真っ赤になってるよ・・・あぁもう。

「なんか、散々・・・。」

だらりとテラスにもたれ掛かってため息を吐いた。
さっきまでは走ってきた熱で気が付かなかったけど、外の空気はやっぱりひんやりしてて思わずぶるっと身震いした。
ふと、遠くで鐘のなる音が聞こえた気がした。
それがまるでシンデレラの12時を告げる鐘の音みたいで。

「魔法、解けちゃったよ・・・。」

ポツリと私の呟いた言葉は周りのざわめきに吸い込まれて消えていった。
相変わらずホールの中はキラキラと輝いていて、仮装した人達は皆楽しそうに笑っていた。
帰ろうかな、踵痛いし。
そんなことを考えていたら、急に知らない人から声をかけられた。

「ねえ、君ひとり?」
「え、あ、まあ。」
「じゃあ、俺と一緒に抜けてどっか行かない?」

にこにこと笑いながら良いでしょ?なんて言ってくる彼。
・・・ウザイなぁ。
私、今全然そんな気分じゃないんですが。

「いえ、いいです。」
「そんなこと言わないで。ひとりじゃつまらないでしょ?俺と遊ぼうよ。」
「ちょっと、」

何コイツ、完全人の言葉無視かい!
いいって断ってんのになんで腕掴んで連れて行こうとしてるわけ!?
あぁもう、本当に嫌だ・・・!

「離し、て!」
「いいから来いよ!」

そう言うなりグイと腕を引き歩き出そうとする男。
嫌だ、嫌だ!
でも履きなれないヒールのせいでうまく踏み止まれない。おまけにさっきの靴擦れが痛くて力が入らない。
やだよ・・・




「おい、離せ。」




掴まれてた腕が解かれたと思ったら、すぐ上から聞こえてきた声。
俯いていて顔は見えないのに、誰なのか分かってしまった。
さっきの知らない人に掴まれた時とは違う、優しい温もりが腕を包んだ。

「おい、」
「え?」

顔を上げると、そこには思った通り。仮面を被った跡部が立っていた。

「何してんだよお前。」
「それはこっちの台詞だし。てか、さっきの・・・」
「あぁ、アイツならとっくに消えたぜ。」

そう・・・と安心して息をつくと、いきなり視界が真っ暗になった。
何!?と慌てて目の前に手を当てると、何かひんやりとした感触。
それが跡部がさっきまで付けていた仮面だと気付くのは少ししてからだった。

「・・・なんで?」
「良いからしてろ。」
「・・・ふーん。」
「おい、行くぞ。」
「ちょ、これ前見にくいんですけど!っ、」

忘れてたけど、靴擦れして踵擦りむいてたんだった。
今になってまた痛みだしてきたよ・・・。

「どうしたんだ?」
「いや、何でも無い。」

靴擦れしたなんて分かったら、また馬鹿だなとか言われるに決まってる。
そう思って跡部には言わないで歩き出そうとしたのに、急に腕を掴まれた。
すると何?って私が言うよりも先に、体がふわりと浮いた。

「は、え、はぁ!?」
「俺様のインサイト舐めるなよ。靴擦れしてんのバレバレなんだよ。」
「いや、え!?何でそれでこうなるの!?」
「んな足じゃどうせ歩くの遅いだろ。」

こうした方が早い。そう言って私を横抱きにしたままホールを突っ切る跡部。
いやいやいや!待て待て待て!

「嫌だ、下ろして!」
「暴れんな馬鹿!お前スカートいつもより短いんだからな!」
「ーーー!!」

慌ててスカートの端を押さえつける。するとその様子を見た跡部にフンって鼻で笑われた。
このやろう・・・!






「Do obediently if you do not want to play a trick you. 」






突然、耳元で囁かれた言葉。
流暢な英語で囁かれたそれは魔法の言葉にしか聞こえなくて、もちろん私には全然分からなくて。

「今、なんて?」
「さあな。」

そう言って跡部はフッと綺麗に笑った。




ーーー仮面をつけていて良かったと思った。




「何だ?」
「・・・何でも。」




だって今、私の顔に熱が集まっていくのが良く分かったから。
あぁもう、魔法の力って恐ろしい。






trick or treat!!!!




(20091031)

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