sit in the sun | ナノ

30-6


「・・・萩、」

誰もいなくなったコートでひとり伏している萩に近寄る。
けれど・・・何て声をかけたら良いのか分からない。
落ち込んで・・・るよね。
だって、レギュラーから降ろされたんだから。

「萩、その・・・」

とりあえず名前を呼んでみたものの、その後の言葉が続かない。

「えっと・・・「あ〜、負けちゃったな。」
「え?」

思わず、素っ頓狂な声が出た。
だって、今まで俯いていた萩の第一声が「あ〜、負けちゃった。」って、ものすごく軽い声だったから。
しかも、笑いながら。

「な、何で?」
「ん?」
「何で、笑うの?だって、萩はレギュラーから下ろされちゃったんだよ?それなのに・・・」
「映。」

そう一言私の名前を呼ぶと、萩はぐいと私の手を引いた。

「宍戸との試合はね、俺から申し込んだんだ。」
「え?」
「俺が、宍戸に試合をしてくれって。そう頼んだんだよ。」
「なん、で?」




何で、萩が宍戸に?




「ずっと不安だったんだ。宍戸の代わりに俺がレギュラーに入って、本当に良かったのかって。」
「そんなこと、」
「別に自分の実力を卑下してるわけじゃないんだ。練習だって必死にやっていたし、自分のテニスの腕にそれなりに自信は持ってた。跡部や忍足にはかなわなかったけど、宍戸とは同じくらいの力だと思っていたよ。昔の宍戸と、ね。」

いつもと変わらない穏やかな表情とは裏腹に、握られた手に力が入る。

「俺も宍戸も、身長が高い訳でも天性の才能を持っている訳でもなくてさ。」

お互い、良いライバルだったんだと思う。
中学1年のころから、どっちが早くレギュラーに入れるか良く競争してたよ。
そう言って萩はどこか昔を懐かしむように目を細めて笑った。

「だから、この前遅くまで練習してた宍戸を見た時はビックリしたよ。正直、すごく焦った。宍戸、確実に何かを掴みかけてたからね。」






このまま見過ごそうかとも思った。
何もしなければ、このまま俺はレギュラーで関東大会に行ける事が決まっていたからね。


でも、無理だった。


こんな不安な気持ちを抱えたまま、関東大会には挑めないと。そう、思ったから。
俺がレギュラーで、本当に良いのか。
宍戸よりも俺は強いのか。
確かめたかった。
だから、俺は宍戸に試合を申し込んだ。




「本当に俺がレギュラーとしての実力を持っているのか、それとも宍戸がレギュラーに戻るべきなのか。ハッキリとさせたかったんだ。結果は・・・」

俺が思ってたよりも、宍戸は強くなったみたいだね。
そう言って、萩は小さく笑った。
だけど萩に握られた手からはほんの少し、ほんとほんの少しだけど、震えが伝わって来て。

「映?」
「ご、ごめん、」
「何で、映が謝るの?」
「ーーーっ、ごめん、」

何でかは分からないけど涙があふれて止まらない私の手を、萩はずっと笑いながら優しく握ってくれていた。
そして私がごめんと呟くたびに、ありがとうと何回も呟いてくれた。
萩は優しい。
誰だって、やっぱり他の誰よりも自分の場所を奪われるのは嫌なはずなのに。
ましてや200人いるこのテニス部のほんの一握りである氷帝テニス部のレギュラーなんて、そう簡単に諦められるものじゃない。
それなのに今、悔しそうに泣く事も落胆することもなく私の心配までしてくれるなんて。
優し過ぎるよ・・・。

「ほら、みんな帰って来たよ。」

そう言って萩がぽんと肩を叩いた。
私は慌てて制服の袖で涙を拭い、後ろを振り返った。

「あん?お前ら座って何してんだ?」
「別に、何も。ね、萩。」
「うん、そうだね。」

そう言って笑えば、変なの〜とジローと岳人が不思議そうな顔で私たちを見た。
その後ろには侑士と長太郎と若と樺地の姿。
そして・・・

「萩之介、」
「亮。」


一番後ろには宍戸が居た。


「・・・って、宍戸!!?」
「うわっ!大声出すなよお前!」
「え、だって、え!!!?」
「まあ、驚くのも無理無いわなぁ。」
「俺も初め見た時はスゲェ驚いたしな。」
「別人みたいだC。」
「みたいと言うか、もはや別人ですよね。」
「でも似合ってますよ先輩!ね!」
「ウス。」
「ふん、まあ良いんじゃねぇの。」

そうみんなが口々に言うと、うるせぇよと言って宍戸が恥ずかしそうに髪の毛をガシガシと掻いた。
さっきまでの宍戸の髪型からは想像もつかないくらい短くなった髪の毛を。

「かかか髪の毛が無い!」
「髪の毛はあるっての!切っただけだ!」
「痛い!」

バシンと容赦なく宍戸から突っ込みを受け、私はキッと宍戸を睨んだ。
だけど宍戸はそれを無視して真っ直ぐ萩に近付き、すまねぇと頭を下げた。

「俺、レギュラーに戻れた。これも全部お前のおかげだ。お前が俺に試合を申し込んでくれたから、レギュラーに戻れるチャンスが出来た。」

本当に感謝してる。そう言ってもう一度宍戸は萩に深々と頭を下げた。

「俺、お前に何てお礼したら良いか・・・。」
「お礼だなんて、大げさだな。それに俺は別に宍戸をレギュラーに戻す為に勝負を挑んだ訳じゃないよ。俺だって勝つ為に試合したんだ。」
「・・・そうか。」

それだけ言うと、宍戸は萩の目の前に手を伸ばした。
そして萩はその手を握り返すと、コートから立ち上がった。

「でもお礼してくれるって言うなら、ひとつお願いしようかな。」
「「「え?」」」

あまりに予想外の言葉に、周りにいたみんながぽかんと萩を見つめる。






「負けるなよ。」
「え?」
「俺に勝ったんだ。他のヤツに負けるなんてこと、しないでくれよ。」

そう言って宍戸に拳を突き出す萩。
一瞬間を置いてから宍戸も拳を突き出し、萩のそれに合わせた。
そして、あぁと力強く返事を返した。










さあ、主役は揃った
これが、関東大会に挑むメンバーだ!




(20090809/20100601修正)

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