sit in the sun | ナノ

30-4


おにぎりを食べ終わると、ふたりはすぐさま練習に戻った。

「次だ!」
「はい!」

ボールの跳ねる音とコートに走る影をぼうっと見ながら、私は残りが少なくなったボトルに新しくドリンクを詰めベンチに置いた。
それにしても、

「宍戸、やっと何か吹っ切れたみたいだね。動きが前とは全然違う。」
「うん、私もそう思ってたんだ。」

宍戸が部活が終わった後も残って練習するようになって1週間経つけど、宍戸のテニスは確実に良くなってきていた。
たぶん、宍戸の中でテニスに対する考え方が変わってきているんだと思う。
全国レベルの選手に勝つためには、いや、これからずっと勝ち続けるためには、自分にはどんな武器が必要なのかと。

「って、萩!?」

バッと後ろを振り返ると、今気が付いたの?と笑いながら萩が立っていた。
ちょ、脅かさないでよ・・・。

「いつからいたの?」
「ついさっきだよ。忘れ物取りに来たらコートが明るかったから、誰がいるのかなって覗いてみたんだ。」
「なんか萩ってしっかりしてるようで良く忘れ物するよね。」

そう言うと、痛いとこ突くなぁと言って萩が笑った。

「それにしても、宍戸と長太郎は毎日こんな遅くまで練習してるの?」
「ううん、宍戸は1週間前からだけど、長太郎は今日から。宍戸が練習に付き合ってくれってお願いしてさ。」
「そっか。」

ぽつりと呟くと、萩はそれ以上何も言わずにただジッとコートを見つめていた。

「萩?」

急に黙り込んでしまった萩に、どうしたの?と言って顔を覗き込むと、ううん何でもないといつものように笑顔で返された。

「そろそろ、かな。」
「え?」
「ううん、こっちの話。」

訳が分からずに首を傾げていると、何でもないよともう一度笑いながら返された。
けれどその笑顔がどこかいつものそれとは違っていたのを、その時の私は気付くことが出来なかった。






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