sit in the sun | ナノ

28-7


俺がサーブを打とうとしたその時、

「映ー!!!!」

ものすごく大きな声がコート中に響きわたった。
あまりに突然のことに驚き、思わず打ち損ねたボールが地面へ落ちた。
そして声のした方を振り返ると、そこには大勢のギャラリーが思わず周りを開けるほどの威圧感を纏った佐藤が立っていた。
その横には苦笑いをした忍足も立っていた。

「な、なっち・・・。」
「映。球技大会放り出して一体何してんの?」
「えっと、その・・・。まだ次の試合までは時間あるかなぁと。」
「で、今その時間は?」
「あ、えぇとー・・・。」

いつの間にかコートに降り、ジリジリと映へ近付いていく佐藤。
相変わらず顔は笑っているが、目が一切笑ってねぇ。
映の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。

「ん?」

遂に映のすぐ横まで来ると、今まで以上にニコリと笑いながらそう問いかける佐藤。

「・・・あ、」
「あ?」
「アップしに走ってきますううううぅぅ!」

突然そう叫ぶと、映は佐藤のいる方向と逆に走り去っていった。
その逃げ足は予想以上に早く、反応仕切れなかった佐藤はその場から動けないでいた。
後ろにいた忍足がハァとため息を吐きながら、俺が追いかけとくと言ってコートを出ていった。

「・・・。」
「・・・。」

何も言わない佐藤。
顔は見えねぇが、纏ってる空気が怖ぇ。
・・・良し、触らぬ神に祟りなし、だ。

「跡部、さっさとそれ片付けて行くわよ。」
「は?」

急にこちらを振り向き命令する佐藤。

「行くってどこにだよ。」
「どこって、グランド。次の試合、私たちのクラスとあんたのクラスの決勝よ。」

それだけ言うと、早くしなさいよ試合遅れるでしょ?と俺を急かしだした。

「俺は別に、」

試合に行くなんて一言も言ってねぇ。
そう言おうとしたその時、

「ウダウダ言うとボール当てるわよ。」

と、下に落ちていたテニスボールを拾い上げ、ギュッと握りつぶしながら佐藤が万遍の笑みで言ってきた。
・・・コイツ、化け物か。

「仕方ねぇ・・・。」

ここで断ったら、俺の命が危ない。
そう思い、俺は素直に佐藤の後をついていった。










「・・・それにしても、」
「ん?」
「何で今年は球技大会に参加してんだ?」

俺は疑問に思っていたことを佐藤に尋ねた。
なぜなら、俺の知っている限りコイツもこれまでクラス行事に参加した事は今まで一度も無かったからだ。
それが何で今年になって、急に参加するようになったのか。

「私が参加してたらいけない?」
「いや、そういうことじゃ無くて。ただ、お前も同じだと思っていたから。」




俺と同じ境遇に立つ人間だと。




佐藤財閥の一人娘。
テニス部部長。
学力は常に女子でトップ。
近寄りがたい雰囲気。


クラスメイトからは一歩距離を置かれ、常に線を引かれる。
それがみんなの知る佐藤だったから。
だから俺の知る限りでは、クラスと関わることは滅多にしていなかったはずだ。
少なくとも、去年までは。

「別に、ただの暇つぶしよ。」
「は?」
「だから、ただの暇つぶし。それ以上でもそれ以下でも無いわよ。」

そう言うと、くるりとまた前を向いて歩き出した。
暇つぶしなら、もっと他の方法だってあるんじゃねぇか?
わざわざ、クラスの奴らと関わらなくったって・・・

「別に、私はクラスが嫌いな訳じゃ無いわよ。」
「は?」
「まぁ、多少なりのうざったさはあるけど。」
「・・・それを嫌いって言うんじゃねぇのか。」

ため息を吐きながらそう言うと、嫌いでは無いわよともう一度言った。

「嫌いだった時も確かにあったわよ。あぁ、私はこの人たちとは違うのかってまざまざと感じさせられる日常にうんざりしてたし。」
「なら、何で・・・。」

俺の言葉はそこで途切れた。
だか佐藤には俺の言わんとしていることが分かったのか、んーと少し唸るように考え出した。
そして数秒と経たないうちに、

「映のおかげ、かな。」

と、笑いながら言った。

「映の、おかげ?」
「そ、映。私のこと、真っ直ぐ受け止めてくれる人がひとりでもいるのなら、クラス行事に参加してみるのも悪くないかなって。私だって、ただの一中学生なんだから。」

そう言ってにこりと笑う佐藤。
それは今まで見たことの無い笑顔で。

「・・・そういう顔して笑うんだな。」
「え?」
「いや、何でもねぇ。」






映のおかげ、か






「あ、なっち!跡部!」

ふと名前を呼ばれた方へ顔を向けると、そこには映と忍足がいた。
どうやらいつの間にか俺はグランドに着いていたらしい。

「それに、」
「あん?」
「映で遊ぶの、楽しいしね。」

そう言ってふふふと笑う佐藤。
それは今まで見たことの無い笑顔で。

「・・・お前、さらに性格黒くなったな。」
「ん?何?」
「い、いや、何でもねぇ。」

慌てて誤魔化すと、そう?なら良いわとだけ言って佐藤は映のところへ歩いていった。
そして入れ替わるように、忍足が俺のところへやってきた。

「珍しいやん、行事に参加すんの。」

何でまた?と不思議そうに尋ねてくる忍足。
別にと呟くも、何か理由あるやろ?と返される。
全く、しつこい・・・。

「別に良いだろ?それとも俺様が参加しちゃ悪い訳でもあんのか?」
「いや、あらへんけど・・・。」


俺だってーーー


「ん?」
「何でもねぇ。」

そう言うと、遠くからおーい試合始めるよーという映の声が聞こえてきた。
何でお前が仕切るんだよ、と呆れてため息を吐いたつもりだったのに、何故か俺の頬は緩んでいた。










俺だって、
ただの一中学生なのだから




(20090701/20100601修正)

- 165 -

[*前] | [次#] | [戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -