sit in the sun | ナノ

28-6


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クラスの行事には、参加しない。
そう決めたのはいつからだったか。






「跡部君、明日の球技大会出るのかなぁ。」






あぁ、そうだ。
確か中学1年の時だ。

「何、急に。跡部君がどうかしたの?」
「んー・・・なんかさ、跡部君が居るとなんか変に気使わなきゃいけないから疲れるんだよね。」
「あぁ、分かる分かる。気に障ることしないようにしなきゃー、とかだろ?」
「あの跡部財閥の息子ってだけでも威圧感あるのに、テニス部部長だしな。」
「下手に触って火傷したくねぇし。」
「そうそう!あー、明日の球技大会どうなるんだろ。」
「休んでくれないかなぁ。」
「うわ、お前最低だな。でも、俺も同じ。」
「ははは。あんたもサイテーイ。」

廊下まで漏れてきた笑い声に、俺はまたかとため息を吐いた。
くそ、これじゃ教室に入れねぇ。
用事がないならさっさと帰れってんだ。


・・・仕方無い、忘れ物は諦めるか。


分かっていた。
俺の機嫌を損ねないように、まるで腫れ物に触るように俺と接するクラスメイトの態度。


跡部だから。
生徒会長だから。
テニス部部長だから。


ただ、俺の持つ肩書き気圧され、勝手に謙遜して遠ざけて。
分かっていたんだ。だから、俺はクラスには関わらないようにしよう。
そう、決めたんだーーー






「馬鹿じゃないの?」

パーンと、ボールが俺の横を綺麗にすり抜けていった。

「今、何て・・・」
「馬鹿って言ったの。」

ネットに近寄りそう吐き捨てる映。
お前に、何が分かるってんだ。
転入してきたばかりなのにクラスに溶け込み、レギュラー以外の部員からも好かれてるお前に何が・・・

「大体さ、考えすぎなんじゃない?」
「は?」
「だって、誰が何て言おうがアンタはアンタでしょ?生徒会長とかテニス部部長とかキングとか。そんなの関係ないじゃん。」

お世辞だとか、社交辞令だとか。
そんなもんを微塵も感じさせない真っ直ぐな目で俺を見据えながら、ハッキリと映は告げた。
そして次の瞬間にはふわりと笑って、




「跡部は、跡部だよ。」


そう、一言呟いた。






・・・くそ、何だこれは。
胸に何かが詰まったように、息苦しい。


いや、違う。


胸にわだかまっていたものが、スッと取れていくような。

「ま、まだ出会って数ヶ月の私が言うのも何だけどさ。」

俺の中で俺が勝手に積み上げていたものが、重りが、崩されていくような。

「でも、知ってるから。跡部が周りの事をよく見ていて、仲間思いで、クールだとか言われてるけどほんとはウザイくらい熱いヤツだってこと。」

俺はただ、何も言わずに映の言葉を聞いていた。
正確には、何も言えずにいた。
今この瞬間にもし口を開いたら、俺は溢れ出すものを止められない気がして。

「で、意地っ張りで我が侭で実は仲間はずれにされるとすごいへこんでそんでそのことウザイくらい根に持つってこと。」
「・・・は?」
「ほんと、ちょっとみんな先にお昼ご飯食べ終わったってだけでねちねちねちねち言ってさ。元はと言えば、自分が生徒会の仕事で遅くなったからだってのに。」
「はぁ!?」

俺が反論しないでいると、次から次へと好き勝手喋りだす映。
コイツ、人が黙って話聞いてりゃ勝手な事言いやがって・・・!
てか、いつの話してんだよ!?

「テメェ、随分な口聞くようになったな。アーン!?」
「別にー。」

そう言ってふふんと笑う映。
この野郎・・・。

「俺様にそんな口聞いた事、絶対後悔させてやるぜ。ギャフンと言わせてやる。」
「ギャフン。」
「テメェ・・・!!」

思わずラケットをブンと振れば、あははは!と爆笑してネットから離れていく。
そして後ろまで行くと、早くサーブ打てーと叫んできた。

「絶対、後悔させてやる。」

ひとり呟きながら、ポケットからボールを掴み出す。
そしてそのまま、上へ高く投げ上げる。






気が付けば、あんなに苦しかった呼吸が嘘みたいに軽かった。






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