sit in the sun | ナノ
27-7
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「・・・何笑ってやがる。」
「え?」
そう指摘すると、笑ってた・・・?と言って顔を両手で押さえる。
気持ち悪いほどにな、と返せば、今度は分かりやすいほど不機嫌な顔になった。
「で、何で笑ってたんだ。」
「別にー。」
そう言えば、さっきのしかめっ面が嘘みたいにまたふわりと笑う。
問いつめようかと思ったが、その表情に何故かどうでも良くなった。
「それにしても・・・」
そう言って映が立ち止まり、俺も同じように歩くの止めた。
何だ、と聞くともう一度ふふと笑い、
「あんな熱くなってる仁、久しぶりに見たなぁって。」
そう、一言呟いた。
「・・・目、悪くなったんじゃねぇか。」
そう告げれば、失敬な!と言って殴りかかってきた。
もちろん、きちんと避けたが。
「すごく、楽しそうだったよ。」
「見間違いだ。」
「ね、テニス部戻らないの?」
「戻らねぇよ。」
「どうして?だって、」
「しつこい。」
有無を言わせずそう言うと、頑固と言ってまた仏頂面になった。
相変わらず表情が良く変わるヤツだ。
それにしても・・・
「・・・いつまでも眼つけてんじゃねぇよ。」
「ん?」
コイツはまだ気がついてないようだが、さっきからずっと俺たちを見てくるヤツらに視線を向ければ、先頭に立っていたヤツと目が合った。
相変わらず、イラつく目だ。
教室の窓から覗き見していたあの時と、同じ。
「ヤツら、待ってるみたいだぜ。お前を。」
「え?」
睨み合うことに飽きた俺は、そう言ってヤツらのいる方向を指差した。
すると、げっと言って苦い顔をする映。
どうやら表彰式を黙って勝手に抜け出して来たらしい。絶対怒られるとぶつぶつ呟いていた。
まあ、アイツが怒っているのはきっとそれだけじゃ無いがな。
「あ、仁。」
ヤツらの居る方向とは別方向に歩き出すと、後ろから映に呼び止められた。
「テニス、辞めないでね。」
「・・・なんで、」
「仁には才能も、実力もあるんだから。」
「っ、」
『どうしてテニスを辞めるんだ!?』
『そんなに身体能力にも才能にも恵まれているのに!どうしてもっと上を目指そうとしないんだ!』
『君のような子はプロになるべきなんだ!何故それを簡単に辞めるんだ!?』
テニスに飽きを感じてきた俺がテニススクールを辞めると言ったとき、あるコーチが散々と俺に言ってきた台詞。
どうしても自分の門下生の中からひとりでも有名なテニスプレイヤーを生み出したかったのだろう。そしてこう言いたかったのだろう。
「あのテニスプレイヤーを育てたのは他でもない、この俺だ」と。
今まで指導らしい指導もしてこなかったくせに、俺にとってはとんだ迷惑な話だ。
しかも俺が一向に辞めるという考えを変えないと分かったのか、最後には逆切れのように怒り出し俺に向かって殴りかかろうする始末。
こっちは怒りも通り越して呆れ果ててるというのに。
ーーーつまんねぇ、全部つまんねぇよ。
そう思って俺がそいつを逆に倒そうとしたそのとき、
「じゃあ私もテニス辞める!そろそろ飽きたし。仁、帰って一緒にゲームしよ!」
そう、映は明るく笑い飛ばしたんだ。
だから俺は結局その最低なコーチを殴り飛ばすことも、テニスを心底嫌いになることもなかったのに。
それなのに・・・
結局コイツも、同じ事を言うのか?
「だから、もう俺はテニスは「だって私がテニスしたい時に相手してもらわないとつまらないしね!」
「・・・は?」
「あ、そろそろ行かなきゃ。」
自分の言いたい事だけを言い終わると、最後にじゃあね!と俺の返事も聞かずに映はさっさと走り去っていった。
「・・・ハッ、何だよそれ。」
才能があるだとか、実力があるだとか。
そんなことよりも、自分が楽しみたいから俺にテニスを辞めるな、だなんて。
そんなこと言うやつ、普通いないだろ。
・・・いや、それを普通に言うのがアイツなんだよな。
ただの暇つぶしだった。
テニス部に入ったのも、試合に出たのも、全部。
「・・・フン、まあ良い。」
いつでも付き合ってやる。満足するまでな。
その代わり、
楽しませろよ?
でないと、面白くねぇんだよ
(20090605/20100601修正)
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