それを何と言えばいいのか。
 カタツムリ? ヤドカリ? や、カメの方が似ているかもしれない。ただその貝殻や甲羅にあたるのは布団で覆われた低いテーブルめいたもので、本体が兄・ヘパイストスということなのだが……何だこれは。

「なんだアレスか」

 俯せになっていたヘパイストスが部屋の入り口で立ち尽くしている俺に気付いて向きを変えた。微睡んでいたらしくぼんやりとした声だ。しかし失礼な第一声だなおい。

「なんだとは何だ。せっかく来てやったのに」
「頼んでないよ」
「頼まれたら来るかよ」

 意味わかんない、とヘパイストスがやはり覇気なく言っていたが構わず歩み寄る。
 よく見れば一段高さが作ってあって草で編んだみたいな床、その上に布団、そして例の布団を被った低いテーブルだ。どうやら布団を被せた上に板を渡してきちんとテーブルの役目も果たすらしい。いくらかの図面を走らせた紙とかペンがその作業をちょっと前に中断されたかのように放置されていた。ヘパイストス自身もなんだかよくわからない綿が入っているような厚手で異国情緒ある服を羽織っている。

「あ、入るなら靴脱いでね」
「ん? ああ」

 とりあえず縁に座って脛当てもブーツも脱いでしまう。

「邪魔するぜー」

 真四角のテーブル、ヘパイストスが陣取る隣の辺に入り込む。

「あ、すげーあったかい! 何だこれ!」
「んー、ヘルメスなんだけどさ、東の方の島国にある電化製品でこれ流行ると思う、とか凄く真面目な顔で持ち込んできた。一回使ってみて感想聞かせて欲しいって」
「ああ…」

 何だか想像出来た。
 仕入れて売り込むのだろうか。

「ふーん。結構いいんじゃねぇの」

 ヘパイストスの脚の上に乗せて自分の脚を伸ばす。どうやらこれの熱源は上にあるらしい。少し熱い。まぁ許容範囲だ。

「うん。だから駄目だと思う」
「は?」
「これ、出れない」
「ああ、脚?」

 そういえばヘパイストスがひとりで立ち上がるの無理なんじゃないだろうか、これ。

「そうじゃなくてさ。…出て何かしようって気力が根刮ぎ奪われる」

 ヘパイストスは天井を見詰めて、もしかするともっと遠い何処かを見る目をして、至極真面目に言った。
 なんという怠惰。仕事を、というか何か造ることばかり熱中する男、鍛冶と工芸のヘパイストスとは思えない台詞だ。それだけにこれの威力がまざまざと感じられたので、そうか、と一言だけ返した。


kotatu〜怠惰の座〜


「で、お前何で来たんだっけ?」
「これー! 一緒に食おうぜ」
「…ユキ ミ ダイ フク…? アイスなんだ。冬にアイス?」
「なんかヘルメスが美味いって言ってたってアプロディテが」
「ふーん…一個貰っていい?」
「えー!」
「一個だけでしょ」
「二個しか入ってないんだから半分だろ」
「なら半分。お茶はこっちで用意するから」
「…じゃあいいぜ」
「じゃ取ってきて」
「おい」



<2012/01/10>



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