さてどうしものか。そう自問したもののどうにも答えは既に決まっていた。

 意識が浮上した。特に目覚まし時計が鳴った訳でなし、朝日が射した訳でもなく、夢が丁度終わった訳でもない。睡眠を十分と身体が判断したのか意識が夢から現に戻ってきた。薄暗い寝室と未明の静謐。柔らかな毛布の質感。少し乾いた空気。いつもより全てを明確に感じとることが出来る。清々しい朝だ。
 だというのに自分の隣で何故ディオニュソスが寝ているのだろう。





 彫像のように美しい、という表現があるがそれは人間に限った表現だ。人は神の斯くあるべしと彫像を造る。感性を磨き、持てる技術を凝らして人間離れした美しさの理想を求め造り上げる。人に畏れられ愛されるディオニュソスならなおのこと。それでも残念なことに彼を再現出来る人間はいない。否、希望を込めて殆どいない、としよう。詰まるところ、彫像のように美しいとは彼の場合に於いては言葉の前後が逆なのだ。

 目が覚めたのは普段ないディオニュソスの気配が隣にあったからだろうか。起きている時なら騒がしく輝くような存在感を発するディオニュソスの寝姿は、しなやかな獣のように、譬えるなら彼のお気に入りでもある豹のように、気配が周囲に融けてしまっている。とても静かに眠るディオニュソスを眺める。
 その寝顔はいくらか緊張感を欠いて、いつもなら美しいと思う貌も幼さと可愛らしさが強く出ている。あまつさえうーんむにゅーなどと寝言が聞こえる。もしかして起きかけているのだろうか。起きるなら起きてくれれば有り難いが。今気付いたのだけど私の服をきゅっと掴んでいる。ちょっとやそっとで放してくれそうでなく、私が起きれば彼を起こしてしまう可能性は高かった。

「ディオニュソス、朝だよ」

 小声で呼び掛ける。ああ、そう言えば昨日は皆で呑んだのだったか、なんて思い出しながら。
 剰り酒に強くない私は自ら進んで呑んだりはしないものの、数名も集まればそのうちにグラスがシャッフルされていつの間にかそれなりの呑んでしまっている。そして呑んだ眠ってしまうので昨夜もそうだったのだろう。見慣れた自室で寝ているということはディオニュソスが運んでくれた、ということなのだろう。何故かディオニュソスまで一緒に寝ているのかは兎も角、私のために労を割いてくれたディオニュソスを起こすのは流石に忍びなく、今日の予定していた工程を思いつつ申し訳程度に小声で朝を告げた。ディオニュソスに取って朝というには早過ぎるだろうと思われたので余計に声は抑えていた。
 ディオニュソスはむみゃむにゅと言ってしかし起きる気配はない。

 さてどうしたものか。そんなの問う時点で答えは決まっているのに。例えばこれがアレスなら問答無用で寝台から蹴り落として間抜けな顔で貪る安眠を完膚なきまでに奪ってやるのに。

 だから仕方ない。
 ディオニュソスだもの。

 そう言い訳にならない言い訳をして、もう一度緩やかに温かな毛布の感触に身を委ねた。


<2011/12/31>



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