慣れとは恐いものだ。
例えばこの弟との関係。
弟が、アレスが私の脚に巻かれた器具を外すのも始めの頃よりずっと早くなった。私は間近にある顔を見上げながらそっと髪を撫ぜる。すると少し嬉しそうな表情をして唇を重ねてくる。どちらからともなく舌を割り入れて柔らかな口腔を掻き回して淫靡な水音と息苦しさを楽しんで。一連の愛撫にぎこちなさは残っていない。
私がそんなふうに、弟に組み敷かれて女のように抱かれるのは数えるのを止めてもう随分になる。
そのうちに思ったのは、アレスは馬鹿だがどうやら頭が悪い訳ではないらしいということだ。
アレスがこうして私を訪うのは、私の名目上の妻がいないときであり、かつ、内縁関係となりつつある女[ひと]もいない時に限ってのことだった。しかし、そもそも私の妻、アプロディテはこの弟を愛人にしていて、アプロディテがいないからこいつが私のところに来ているという可能性も高いのだが。
がしゃん、と聊か派手な音をたてて器具とベルトも取り払われた。見れば無表情で、だけど憤っているような、なのに欲情を隠しきれていない端正な貌があった。私はこの貌が好きなのだ、と思う。今度は私が笑みを含んでアレスの首に腕を回す。
下衣に手がかかった。
こんな関係を是とするなんてどうかしている。そんな思いはなくなった訳ではない。だけど慣れてしまった。
否、初めから、じゃないか。
<2011/09/10>
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