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たまには素直になればいい

第一印象は、冷徹で人を寄せ付けないような奴だと思った。
マスクで口元を隠し、マスクのせいで表情が見えない。いや、誰にも心の内を見せないようにわざと隠しているのだろうか。
最初はマザー以外の命令など聞く気もさらさらなかった。
だが、0組の担当であった彼、クラサメはそんな彼等の態度を一瞬にして変化させた。
元々、朱雀の魔道院での四天王、氷剣の死神と噂されていた彼は彼等を指揮する実力は十分にあった。
感情を素直に曝け出すような人ではなく、彼の事を誤解する人も多い。
だが、彼と今まで共に行動をしていると、意外な部分も見えてくる。どうも悪い奴じゃないらしい。
決して感情表現が豊かであるとは言い難いため、周りからは何を考えているのかわからないなどの印象を持たれる。あまり、本当の彼を知る人がいないけれど、彼には多彩な面があると思うのだ。

彼をあまり知らない人がそんな一面に気がつかないことにもどかしく感じるが、彼のそういった所に気付いてなくても自分1人でも気付いていれば良いのであり、彼の一面を知ることで少しずつ心をひらいていくようになった。
そんな事を考えながらぼんやりとシルエットを眺める。
………ース。
「……エース!!」
はっとして声の方へ向くと、クラサメが鋭い目つきで彼、エースを見ていた。
氷剣の死神の名の如く、凍らせるような目つきで相手を怯ませる。

反省しているなら良し。と一言零すと、さっさと授業を再開させた。
いつもなら真剣に聞いている授業も、ぼんやりと黒板を見つめ、持っているペンをくるりと回す。
終礼の音が鳴ると、号令と共に授業は終わった。

* * * *

暖かい陽気に眠気が誘う。ピィ、と言う鳴き声と共に目を開けると、昨日のミッションの疲れだろうか、眠気が取れない。
人の気配がする。良く見ると、見た事のあるシルエットが浮かび上がる。
0組の指揮隊長の証である黒いマントを纏い、口元を隠すマスク。
紛れもなく彼、クラサメだ。
彼には似つかわしくない場で、まさか出会うとは思わなかったエースは、少し驚いた。
彼はチョコボを見て、ふっと微笑む。こちらに気がついたのか、エースの方をチラリと見ると、何事もなかったようにいつもの険しい表情に戻った。


「…そんなにおかしいか。」

無意識に表情が笑っていたらしい。癪に障ったのだろうか。少し不機嫌そうにこちらを向いた。

「どうして、あんたがここに。」

どうして、だなんて答えは明確だろうが、それほど自分がここに居るのがふさわしくないのか。と、彼は思った。

「少し、気になってな。」

何が気になっているのか。いつも忙しく0組の指揮や業務に追われている彼が時間を割いてチョコボ牧場に居るなんて…ぐるぐる考えながら伏せていた顔を上げると、隊長の周りを雛チョコボが何羽も囲んでいる。
困惑しながらも優しく笑う隊長に、込み上げる。
「だめだ。…笑う。」
日常では見られない様子に不意に笑ってしまう。
不機嫌な険しい表情も、フワフワと飛ぶチョコボを見ながら困惑し、時折見せる見た事の無い顔が益々笑いを誘う。

「笑いすぎだ。」
そう言いながらも隊長も笑っていたように見えたのは気のせいだろうか。
(たまには素直になればいい)
そうすれば、ほら。



















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