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想い出と呼ぶにはまだはやい

辺りは戦争で戦死した仲間や敵があちこちに倒れている。
戦場という言葉通り、血の匂いや人が死んだ情景が鮮明に目の前に映し出されている。
意識は朦朧とし、気が抜けたようにふらついたエースはその場にしゃがみ込んだ。
先ほどまで同行していた0組の仲間が見当たらず、今にも崩れ落ちそうな柱に背を掛けると、目の前に居る朱の制服を纏い戦死をした仲間をみて苦痛そうに眼を反らした。

「ここは、…何処だ?」

初めは戦場で傷ついていく仲間を見ていく事が辛かった。だが、幾とどなく戦場に駆り出されてきたエースは、死んでいく仲間を見ていくうちに悲しい、辛いという感情を抑え込んできた。そうすることで、自分の感情にも鈍くなっていった。
亡くなった仲間に祈りを捧げ、ノーイングタグを回収すると懐にしまう。

朱雀からの通信は聞き取りにくく指揮官からの通信が途切れながらも聞こえては来るが聞き取れない。
幸いにも敵軍はこの場所からは撤退していた。完全に自分の今いる場所が分からない。誰も居ない、人が生きている気配がないこの静けさがぞっとさせた。
暫く何も考えないように目を閉じた。
ーくすぐったい。何者かの足音と、可愛らしい鳴き声とともに目を開ける。
そこにはエースを励ますように触れるチョコボが傍にいた。
傷を負ったチョコボがたどたどしく彼に近づくとふっとエースは微笑んだ。

「…くすぐったい。」

顔を近づけてきたチョコボを撫でると、嬉しそうにチョコボは鳴く。

「お前も、僕の前から消えるのか?」

ピイと鳴くとその言葉を理解したのか分からないが、その言葉を最後に、彼は意識が途切れた。

* * * *

…ー君もチョコボが好きなのか?兄弟ってのは格好悪い関係なんだ。
俺の弟がチョコボ好きでさ。…俺の名前は…。

…ース!…「エース!」
何者かが名前を呼ぶ。意識は朦朧としているがはっと取り戻すと、先程戦場で負った傷が痛む。


聞き覚えのある声を聞いて声の主を確認すると先ほどまで行動を共にしていた彼、マキナが心配そうに見ていた。
彼が自分を心配して声をかけるのはあまり見られないが、よほど自分を心配していたんだろう。申し訳なくなりごめん、と謝る。

「傷を負ったチョコボがエースのそばに居たんだが、気が付いてたか?」
「いや、さっきまでいたんだけど、どこ行ったんだろう?」

夢を見ていた気がする。先ほど傍にいたチョコボが懐かしくさせる。
ふと、気が付いてしまった。彼が、夢の中で出てきた"誰か"に似ていることを。
マキナは?マークを浮かべて、どうした?と疑問詞をうつ。
その誰かは分からないが、クリスタルの影響であろうか思い出せない。誰かとは、死んでしまった人なのだろう。

「さっきのチョコボ、すごくエースに懐いていた。俺もチョコボが大好きなんだけど、昔、チチリってチョコボがいたんだ。俺が名付けたんだけど、兄さんに笑われてさ。でも、可愛い名前だろ?」

「確かにチョコボは好きだけど。マキナ、変だよ。」

「そうか?可愛いと思う。俺の兄さんは、チョコボが好きだった。でも今はどうしているのか分からない。それだけ覚えている。記憶がないんだ。」

そうか。死んでしまった人の記憶は残らない。
でも、温かい気持ちは残っている。この気持ちがどういうものだったのかは分からないけれど、ぼんやりと何か浮かんでくる。

「…エース?」

頬に雫がつたう。悲しくもないが、泣きたくなるような。だけど心に残るものは嫌ではなかった。死んだ者の記憶は忘れてしまう。きっと戦場で戦い続ける限り、前を向いて行けるように。


(涙を流しても、)
想い出と呼ぶにはまだ早い







































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