「エースさん…?」
辺りにはきれいな円状に規則正しく並ぶ墓たち以外何もなく、颯爽と茂る草木にふわりと風が舞う。 空はあいにくの天気で、ぽつぽつと雫が落ちる。 先ほどまで輝いていた太陽は雲に隠れ、乾いていた墓石にぽつぽつと模様ができた。 そこには心配そうに彼を見つめるデュースがいて、ただ一心に墓石に刻まれたある名前を見つめながら無表情で立っている彼、エースがいた。 彼女の呼びかけにも答えないエースに不思議に思ったが、暫く見守ることにしたデュースは彼と一緒に、私たちの隊長"だった"人の名前を見つめた。 0組の隊長で、私たちの指揮官を務めていた事、それに記録をみた。 (どんな人だったんだろう) 真っ先に頭の中で浮かんだ言葉はこの言葉だった。 はたから見たらおかしな話だろう。でも、クリスタルのおかげで私たちは死者の記憶を忘れる。
「僕達の隊長って、どんな奴だったんだ…?」 今、二人で墓地に来ているのは、今回の作戦で亡くなった0組の指揮隊長だった人のお墓参りのためだった。 足元にある墓石にはクラサメと名前が刻まれている。やっと墓地に来てから一言目を話したエースは、墓石の横に花を添えた。 その場でしゃがみ込みと、聞こえないような声で言う。
「記録を見ても、必死で思い出そうとしても、何か忘れている気がする。隊長だったその人はどんなふうに僕たちに接して、どんな風に僕たちが答えていたんだろう」
彼は少し淋しそうな表情で零した。 少しずつ強まっていく雨音は、その言葉をかき消す。 私たちは死者の記憶を忘れる。 だから私たちは仲間が死んでしまっても悲しむことはない。 どんな風に話していたのだろうとか、どんな人で、どんな風に私たちとかかわっていたのだろう。そんな事を思っても思い出せないのに。 雨にぬれている彼は、泣いているように見えた。 悲しくもなく、涙も出ない。 けれど、私たちは私たちの隊長の死に何かを感じていた。 一緒に彼の横にしゃがみ込むと、ゆっくり言葉を零した。 「エースさんは、いなくなったりしないでくださいね。」 雨音で聞こえないくらいの声で話すと、エースは?マークを浮かべてこっちを見た。 何を言ったんだ?と言うと、内緒です。と答える。 雨音は少しずつ消えていく。 行くぞという声を聞きながら、良く聞こえるようになった声に安心した後頷いた。
生きた証
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