その結末は当人も知らない。




「…お前は、」

自分の軽く握られた手先を見つめながら口を開いた。
相手の顔くらい見たらどうなんだとも思うが、今更そちらを見るのも変な気がした。
今この空間に漂う匂いの正体について、わざわざ事細かに説明してくれていたのを遮ってしまった事への罪悪感からかもしれない。


「私と居て楽しいのか。」


しかしやはり気になる。ちらりと目線だけそちらに向けると、何とも言えない顔で目を瞬かせた。





そんなこと今まで気にした事がなかった。
何故かと言えば、それは至極簡単な事である。

私がそう感じた事がないからだ。

だから気にしてもしょうがない事だと思っている。
それがなくて不自由だと感じる事もなく生きてきたのだ。最初からないのを不自由だと感じるのもおかしいのかもしれない。

私と居てそれが発生するとも思えない。それが何なのかは分からないが、私とは無縁の代物なのだろうという事くらいは判る。
自分でも思うが私はつまらない奴だ。

私が生きる意味など、仕事をする。ただそれだけだ。
仕事につまるつまらないもないが、つまらない奴だと言われた事がある。否定はしない。

つまらないと楽しいは正反対だと、知識では知っているのだ。

今更だ。


それなのに、私は何故こんな質問をしたのか。

楽しい訳がないだろう。


それは分かっている。


だが知りたかった。
何故こんなにつまらない私に構うのか。私と会って何か利益があるのだろうか。

例えばそう、“楽しい”だとか。

彼に何かを、私は与えることが出来ていたのだろうか。


私は与えられてばかりだ。
気遣いやアロマテラピーだけでなく、安心も与えてくれる。
落ち着ける、のだ。彼といると。


だから出来れば何かを私も与えたかった。



この質問はその一歩なのだと思う(実はよく分からない)。
怒らせたい訳ではない。困らせたい訳ではない。

なら私は一体何を、与えたいのだろう。







誰かに何かしたいなどと考えた事もなかった。





何かが狂い始めているのを感じる。









End.
――――

相手はきくじろーさん
秋さんお子様ほんのすこしお借りしましたっ


title by 告別


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