確かに恋だった




「…おい」


耐え切れずに呼び掛けた。

聞こえたんだか聞こえてなかったんだか、そいつは振り返らないままだ。
やけに背中が小さいなと思った。こんなもんだったかとも思った。私はもしかしたら、こういう風に意識してそいつを見たことがなかったのかもしれない。気付かなかったのだ、こんなにも近くに存在はしていたが私は追う側ではない。


「―――」

誰かの名前を呼んでいた。

それが誰なのかは定かではない。いや、正確には知っている。しかし私がそれを知っていると言うには、何かが違うと思った。

何故か泣いているのだと思った。顔など見えはしないが、向けられた背中に悲哀が映った。そんな気がした。いつもはぼやけた表現は嫌いだが私がそう感じたのだから仕方がない。本当は泣いてなどいないのかもしれないが、それさえ私には分かりえないことだった。
誰かの為に、泣いているのだろうか。その誰かが何故か羨ましく、思う。それが私に向けられることはこれからもないと分かっているからか。そいつは私の為には泣かない。



それは確か10年程前の出来事だ。

そいつは左遷されてきたかと思えばすぐに禁固に入った。一年と少しで出て来てすぐに私の部下になった。
送られてきた資料には簡潔な詳細と、出処後は私の部下にすると記されていた、またあの人の気まぐれが私に回ってきたと思った。

そいつは軍が嫌いだと言った。
人の真似をしたこの軍は野生のポケモンによく嫌われる。
だったら何故入ったのかと聞いても、口を閉ざして笑うだけだった。
気に食わない、存在だった。



「―――」


そいつは私を呼んでいた。
いつの間にかこちらを振り返り、いつもと変わらない笑みを貼付けていた。


ああ悲しい。


と柄にもなく思った。

無性に私にも涙があったらと、思った。











End.
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まめのすけ(ジバコイル)と、軍人の誰か
合わないからこそのタイトル


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