斥力不在。
付き合い始めて3週間。
しかし以前と大して変わらない――強いて言えば密着度が僅かに高まった程の――関係が続いていた。
喧嘩した訳でも無い。
ただ単に、好きすぎて大切で、どうすれば良いか判らないだけ。極めて単純かつ複雑な理由によるものだ。
どうしようも無い位に、ベタ惚れらしい。
「堺さん!一緒に帰りましょう!!」
「…おぅ」
練習後の恒例となった会話を交わす。
俺が悩んでいるにも関わらず、世良はこの現状に満足しているのか、いつも終始にこにこと笑顔。……お気楽な奴め。
「先行ってろ、直ぐ行く」
「はい!!」
犬の耳やら尻尾が見えるのは気の所為…では無い筈だ。ばたばた五月蝿い足音を盛大に廊下に響かせ駆けて行った。
溜め息を1つ溢し、視線に気付く。ロッカーの影から……あぁ会いたくなかった。コッチ来んな。
「ふっふー、堺くんは優しいねぇ」
「いや下心からでしょ?家でヤらしい事したくてぇー」
「石神、残念ながら微塵も無いぞ。失せろ邪魔だ特に丹波うぜぇ」
「ヤだっ堺さんてば暴言を!!聡悲しいっ」
「私の丹さんになんて事を!!許さない!!」
だから何でお前等は一々絡んで来るんだ!疲れるんだよ莫迦野郎。さっさと帰ろう。
「そーいや何処までやったの?」
「は!?」
いきなり何なんだよ!?
サラッととんでも無い事聞くな!!
「あ、ソレ俺も気になる。堺っ教えて!」
「教える必要性が無いだろ!第一聞いて楽しいのか!?」
「え?楽しいじゃん。」
「ぐっ…!!」
「ほーら堺くん観念しなー?」
ニヤニヤと差し迫る強敵に抗えず……俺は答えてしまった。今なら羞恥心で死ねる。というか殺せる。眼前の2人を。
「ぎゃはははは!!きっ…キスもまだって…くくっ…やべ笑い死ぬー!!」
「だっ黙れ!!そんままくたばれ!!」
「駄目だねぇ堺クン!そんなんじゃあ飽きられちゃうぞー?もっと押してかないとさぁー」
「余計なお世話だ!」
「ガミさんが手本見せてあげるよ?って事で丹さん、唇貸して」
「断る。」
「そんな照れんなって!ほらほらぁ」
「いやー!堺さん助けてぇー!!」
「……………」
ガチなのか?ギャグなのか?
考えるのも疲れる。コントを続ける莫迦2人を無視して駐車場へと向かった。
「あっ、堺さーん!!」
「悪ぃ、遅くなった」
「いーえ!大丈夫ッス!!」
やはり笑顔で、世良が抱き着いて来る。お前よく恥ずかし気も無く出来るな、逆に羨ましいわ。
「おい、動き難いから離れろ」
「えー、いやッスー。もっと堺さんとくっつきたいッス!」
「離れろってば」
「やだ!!」
やだってお前。22にもなって…可愛いんだよ畜生。必然的な上目遣い、あどけない言動……あぁそうさ全てが好きだ。
コイツは、俺だけのモノ。世良だって俺以外のモノになる気は無い筈。
……何だ。
何も難しい事を考える必要は無かった。
迷いが、吹っ切れた。
「世良」
「はい?」
顔を無理矢理上げさせ、唇を重ねた。
「さっ、堺さ……っ!?」
湯気が出そうな程に赤面し、突然の事に困惑している。…当然だろうな。
だから顔を両手で包み、目を確と会わせて言ってやった。
「 」
其れが俺の本心だ。
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