『……ん、』
朝方、カーテンから漏れる日の光と寝心地の悪さに目を覚ました。
『…えぇ!?』
背中に温もりを感じる。自分の腰辺りに回された手はなんだろう。こわい。首だけを動かして後ろを見ると、長い黒髪がベッドの上にあるのを確認。まさか凛々蝶ちゃん!?…なんてことは絶対に無いだろう。
『……はぁ』
なにやってんの、蜻蛉は。私の背中に頭を埋めている彼。
『かげろう』
「……ん」
『朝だけど』
「………あぁ」
なんだ。一体どうしたんだ。そういえば、昔にもこういったことがあった気がする。多分、その原因は、
『寂しいんだ』
「………………」
『双熾と凛々蝶ちゃんが離れていっちゃうような気がして、どうしようもなく寂しいんだ』
「…名前にはお見通しか」
『ふふ、私が何年一緒にいると思ってんのよ』
しおらしい蜻蛉なんて、気持ち悪い。
『ほら、起きて。シャワーでも浴びてきなさい』
「か、借りていいのか!」
『断る理由なんてないでしょ』
眠たい頭を無理矢理目覚めさせ、起き上がる。うわ、ねむいな。蜻蛉を浴室に向かわせてから、珈琲を片手に一息吐いた。そうだよね、寂しいよね。
「あがったぞ!」
『朝から大声出さないでよ!…ほら、ここに座って』
「む、なんだ!跪けということか!」
『違う!髪の毛、乾かしてあげる』
ソファに座る私の足の間に彼を座らせて、ドライヤーの温風で髪の毛を乾かしていく。
『きれいだね』
「だろう」
『はい、終わり』
「もう終わったのか」
『今日は何をしようか』
蜻蛉は自分の髪を一束手にとった。
「名前の匂いがするな…えへ」
『…変態っぽいな』
「そうか、褒めてるのか!」
『はいはい』
前屈みになって彼の頭に顎を乗せると、確かに私と同じ匂いがした。これは同じシャンプーを使ったからだろう。
『いつでも私が隣にいてあげるから寂しくないでしょ。でもまぁ、双熾も凛々蝶ちゃんも蜻蛉から離れていかないと思うけど』
「…名前」
『うん?』
「き、キスしてもいいか」
『あはは、いいよ』
次の瞬間、頬に柔らかい物が触れた。
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120328
溜め込むタイプの蜻さま。