「名前!」
『うっわ、蜻蛉』
「こんなことに驚くとはな!」
『驚くっての』
昼頃に起きて、部屋の扉を開けると蜻蛉が腰に手を当てて立っていた。偉そう。
「中華をご馳走してやろう」
『えっ!』
「お前は中華料理が大好きであろう」
『うん、大好きっ!』
大好きな中華をご馳走してくれるとなると自然と笑顔になってしまう。中華大好き!エビチリが食べたい!
「そ、その…なんだ」
『なに?』
「…私と中華だと、どっちが好きだ」
『愚問でしょうが』
「そ、そうか…えへへ」
なんで照れてんの?
愚問…断トツで杏仁豆腐だな。
『何時から?』
「夕方、許嫁殿を迎えに行ってからだ。カルタも連れてな」
『…あ、そうなの』
二人きりかと思ってた。
「二人きりかと思ったか?」
『うぐ』
「今度は2人で旅行に行こう」
『…………つ、』
「ん?」
『…草津が、いい』
「温泉か!快いぞ快いぞー!」
図星を突かれたのが少なからず腹ただしい。次は彼の放浪にお供してあげようと思う。
『(…やっぱりこうなるのか)』
助手席に座る彼を横目で見て、バレないようにため息を吐く。
「あのサラリーマンはM!」
「やめてくれないか!」
「運転をする名前はドえ『あ?』
「ドS!」
『よろしい』
中華料理店に着いても蜻蛉の勢いは止まることを知らない。憔悴しきる凛々蝶ちゃんと渡狸をとても可哀想に思う。
『カルタ、北京ダックだよー』
「あーん」
「…はぁ、君たちはよく通常運転ができるな」
『慣れてますから。はい、あーん』
美味しそうに北京ダックを頬張るカルタはとても可愛い。立ったままチラチラと蜻蛉がこちらを見てくるのが気になる。なんだ、羨ましいのか。
「………名前」
『黙って座りなさい』
「はい」
『で?なぁに?あーんして欲しい?』
「そ…そんなことは」
『あ、そう。凛々蝶ちゃん、あーん』
「…あ、あーん」
この女の子2人が本当に可愛い。野ばらちゃんの気持ちも分からなくもないなぁ。うふふ。
「名前、名前」
『なによ』
「……………」
こいつは子供か。
『はぁ…で、してほしいの?』
「…………しい」
『聞こえないなぁ』
「……して、欲しい」
『あんたってなかなかのドMよね。はい、あーん』
凛々蝶ちゃんが「名前さんにだけは逆らわないようにしておこう」と肝に命じていたことなんて、私は知らなかった。
―次の日の朝
大浴場から出た私は、朝から見たくないものを見てしまった。なんでこの2人は喧嘩してるの。
『あんたら、朝からなにやってんの』
「蜻蛉さまに“お願い”をしているんです。名前さまは手を出さないで下さいね」
『出すつもりもないけど』
「名前、出掛ける準備をしてラウンジで待っているがいい!」
『…?分かった。蜻蛉は鎖骨を折られないようにね』
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120326