『正直に思ったことを書いていけばいいんじゃないかな』
「正直に…」
『どんな些細なことでもね』
「…そっ、そんな簡単に言うのはやめてくれないか!」
─名前には、分からないだろう。
「絶対君主の帰宅だぞ、家畜共…」
せっかく私が帰ったというのに、なんなんだこの気まずい空気は。
「蜻たん、おっかえりぃー」
「あぁ!しかしこの空気はなんだ」
「えーとね、かくかくしかじか」
少しずつ残夏が話し始める。
凛々蝶が学校の課題で作文を書くことになったらしい。それも、家族についてだ。それで内容に悩んでいた凛々蝶に名前が一言助言した、と。
「○○たん、ふらっとどこかに行っちゃった」
「だから名前がいないのか」
名前と凛々蝶とでは育った環境が全く異なっている。正反対といってもいいだろう。先祖返りの中でも、名前は至って普通の家庭だったからな。
「そしてちよたんが項垂れてるの」
「元許嫁殿はツンシュンだからな!」
「う、うううるさい!」
先程から、彼女は眉を八の字に下げて思い詰めたような表情をしていた。彼女も後悔しているのだろう。ただ、と言葉を続けた。
「ただ、…私が子供だったんだ。あんな些細なことで怒鳴って、結果的に名前を傷付けてしまった」
「……私から言えるのは、名前は傷付いた訳じゃないということだ。少し待ってやってくれ」
「だが…!」
「考えてるんだ、名前は」
すると、図ったかのようなタイミングでエレベーターが降りてきて1階で止まった。開いた扉から見えた輝いた表情の名前が、カツカツと靴を鳴らながらこちらに向かって歩いてくる。
「名前っ、」
凛々蝶の前までやって来た名前は、優しく彼女の肩を掴んで笑顔で言った。
『私たちだって、凛々蝶ちゃんの家族だと思う!私は凛々蝶ちゃんも妖館の皆も家族だと思ってるもの』
今はそれだけじゃダメかな、と困ったように笑う名前に凛々蝶もつられて笑顔になった。どうやら二人の仲と作文が一度に片付いたようだな。そして元許嫁殿は作文を書くからという理由で部屋に戻った。
「名前、貴様も実は少し後悔していただろう」
『…言われたのよ、私には分からないって。私は全然凛々蝶ちゃんのこと分かってなかったんだなぁ、って思ってたの』
「そうか」
『でもね、やっぱり凛々蝶が大切なのには変わりなくってね』
私は、そんな名前が大切で、とても愛しく思うがな。
『あ、そういえば蜻蛉はいつの間に帰ってきたの?ナチュラルすぎて全く気付かなかったわ』
「…………」
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120501
皆さん、蜻蛉の人をよく見ているところが大好きなハズ。
この連載は原作沿いでもないし終わりが見えませんね。私にも見えません!オチは大体決まっているのでズバッと終わらせるか、今までのように短編感覚で続けるのとではどっちが良いでしょうかね?