仕事を終えて妖館に戻ると私宛てに実家から郵便物が届いていたと、メイドのあゆむさんに大きめの封筒を渡された。オカマのね。
「○○たん、もしかしてお手紙ー?」
『手紙にしては大きくない?あっ、もしかして懸賞が当たったのかも』
「懸賞なんか出してたの…?」
悪いか。
封を切って中身を確認する。
「なんだか見たことのある…」
『お見合い写真だね』
厚手の冊子のような二つ折りのそれを開くと、中には誠実そうな男性の写真があった。
「お医者様だってさ〜♪」
『はい?って、残夏』
彼は封筒の中に同封されていたらしい便箋を手にしている。いや、勝手に読むんじゃないよ。
「研究会で行った病院で見掛かけた○○たんに一目惚れして、お見合いを申し込んだってさぁ」
『はぁ?』
「名前、あんたもいい歳なんだから良い人の一人くらい連れて…」
『ねぇ、それって私のお母さんからの手紙でしょ』
だから読むなってば!…いい歳って、まだ20代なんですけど。
「誠実で高収入、○○たんを愛してくれる人。なかなか良い物件だよねー」
『うーん』
「受けるのか?」
『うわっ』
いきなり、耳元で聞こえた声に内心驚いた。
『か、蜻蛉…いきなり出てこないで』
「……受けるのか」
ドミノマスクのせいで表情は殆んど伺えないが、愛する恋人にそんな寂しそうなトーンで言われると「受ける」だなんて簡単に言えない。
『考えてみよう』
「○○たんのターン!」
『先程の残夏の言葉、誠実で高収入、私を愛してくれる人。これは普通に魅力的だと思うね』
「うんうん」
『こちら、青鬼院蜻蛉』
「呼んだか!」
『彼はこう見えて、意外にも誠実であり、加えて硬派でもある。青鬼院家の息子という点で収入の面はクリア』
「○○たんに向ける愛情も問題なし」
『つまり、彼も良い物件な訳です』
「おぉ〜」
『以上を踏まえて、このお見合いはお断りさせて頂く所存であります』
これで良い。これで良かったんだ。
その日の夜、私の部屋に蜻蛉が訪ねてきた。
「貴様に渡すものがあるのだ!受け取るがいい!」
『やったー』
両手を差し出すと、先程ラウンジでの話題の中心であったお見合い写真のようなものが手渡された。まさか。
『………』
「どうだ!」
開くと中には予想通り写真があった。それも、
『…か、蜻蛉ですね』
「以前名前に渡そうと用意したものなのだ」
写真にはイスに座って足を組んでいる蜻蛉の姿が写っていた。なんでこんなものを用意したのかが一番の謎だが。
『有り難く貰うね』
部屋に飾ろう。
「それと、だな…」
『うん?』
「…近々、二人で名前の実家に挨拶に行こう」
今日のお見合いの一件が、少なくとも彼の不安要素になったのは間違いないらしい。
『うん。私のお母さんは蜻蛉を気に入ってたから、きっと喜ぶよ』
そう言って私が笑顔を見せると、彼もいつものように口角を上げて笑ってくれた。
あぁ、なんて愛しいんだろうか。
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120423