―夏休み
『………』
私は珍しく仕事で出遅れてキャンプに合流した。
『……蜻蛉、そのイカどうするの?』
「名前、遅かったな!」
『仕事で遅れたの。木綿、そのイカ解体するんでしょ?』
「おー」
『頑張ってー』
焼きそばを作る木綿の隣で、蜻蛉が両手でイカを持っている姿がひどく滑稽だった。私も着替えよう。水着の上に白いパーカーを着てから、砂浜に設置されていたパラソルに入る。
『あっつ…』
「この日射し、S!」
『うわ!!びっくりした!いきなり入ってこないでよ』
「ふははは」
『蜻蛉、そのマントどうにかしてよ!見てるこっちが暑苦しい』
「私のアイデンティティーだからな」
『あ、さいですか』
彼は昨日まで妖館には居なかった。おそらく、今日の朝に帰宅しても誰も居なかったから寂しくてここまで追い掛けて来たんだろう。とりあえず、なんとかマントだけは剥がした。
『着替え持ってきてないんだ』
「あぁ」
『そっか。海で遊べなくて残念だね』
海で子供たちが遊んでいる。野ばらちゃんが女の子2人を追い回している。微笑ましいなぁ。
『…なんで私は押し倒されてるの』
「海で遊べないよりも、名前の水着が見れない方が残念だからな」
『パーカーのチャックを下ろすな、この変態!』
両手を固定されては敵わない。普段の反逆か、反逆のカゲロウなのか。
『脱がされてしまった!』
「快いぞ快いぞー!」
『日に当たりたくないのに!』
「私が日焼け止めを塗ってやろう!」
『寄るな!』
そうやって、手をわきわきと動かすのはやめて欲しい。ひとまず落ち着きを取り戻した私は、座り直して膝を抱える。海に視線を戻すと楽しそうに遊ぶ住人が見える。
『…楽しそう』
「貴様も混ざれば良いだろう」
『私、カナヅチなんだよね』
「ほう!」
『…しかしアレよね、胸周りの格差社会が深刻だわ』
目が据わってるぞと言われた。
「私は大きさなど気にしないが」
『でも女の子はそうじゃないんだろうなぁ』
「そういうものか」
『まぁ、私も気にしないんですがね』
もう少し海の近くに行こうか、そういって立ち上がった私に蜻蛉も着いてくる。私たちに気付いたカルタに手を振ると、振り返してくれた。
『蜻蛉』
「ん?」
『せいや!』
「は、」
後ろから彼の背中を力強く押すと、バシャンと水しぶきをたてて海に入っていった。四つん這いになっちゃって。
『おやおや〜』
「もしかして…さっきのことを怒ってるのか?」
『別に』
「す、すまなかった」
『あっ!そうだ、マントは濡れてなくて良かったね!ほら、手』
貸してあげる、そう言い切る前に差し出した右手が勢いよく手前に引かれてバランスを崩した。
『ちょ、うおわ!』
そして、未だに立ち上がっていなかった蜻蛉に抱き留められた訳ですが。水しぶきで頭から濡れてしまった。
「涼しいだろう!」
『わざと?…この、沈めてくれる!』
「え、ちょ、…あぶっ、もががが!」
久しぶりに童心に返ったキャンプでした。
「あの二人は本当に仲良しだよね〜」
「あー、そうなの?」
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120406
海に行きたくなった。