ラウンジで凛々蝶ちゃんに絡む蜻蛉を見守る。隣の双熾も私と同じような状況だろう。なんだかんだ仲が良いんだよなぁ、あの二人。というより、しつこい兄と、それを邪険に扱えない妹みたいな。
『双熾』
「はい、なんでしょうか」
『いい表情するようになったね』
凛々蝶ちゃんを見る双熾の目はとても柔らかく慈愛に満ちている…といえば聞こえは良いが、彼が彼女に向ける愛情がところどころズレているのを私は知っている。壁一面に写真を貼ってみたり、贈り物を永久保存してみたり。一応、これはただの噂だけど。
まぁ、それで彼らの関係が円満なのであれば私は何も言わない。
「…凛々蝶さまは勿論ですが、それは蜻蛉さまと貴方の存在があってこそなのですよ」
『それは光栄ですな。私、双熾の第一印象とか最悪だったわ』
「懐かしいですね」
『うん、そうね』
何年前だろうか。私は幼い頃から青鬼院家に足を運んでいた。いとこだし、蜻蛉ママは良い人だったし。そして、ある日突然現れた新入りが双熾だ。
お家の事情は分かったが、何よりも彼の笑顔が鼻についたのだ。第一印象は、まぁハッキリ言うと「なんか凄くゲスい狐さん」であった。
「…酷い言われようですね」
『そう?まぁ良いじゃない。過去より今よ。私は今の双熾は好きだよ』
「そんな…私には凛々蝶さまが…!」
『そういう意味じゃない』
こいつ、最近は今まで以上にボケてくるようになったぞ。
「名前さまは昔から蜻蛉さまが好きでしたね」
『そうかな』
「あの時なんか…『シャラップ』
黒歴史を暴露されそうで怖い。
『…あれ、凛々蝶ちゃんと出掛けるんじゃなかったの?』
「はい、そのつもりなんです」
『気を使わないで行って良いんだよ、時間は大切にしないと』
私に向けてクスリと笑ってから、双熾は凛々蝶ちゃんに声を掛けて出ていった。二人の格好からして、多分デートだろうか。若いって良いね。
『蜻蛉』
「名前!私を放置プレイするのには満足したか!」
『それって逆じゃ…もしかして蜻蛉くんは構って欲しかったのかな?ん?』
「そ、そんなことはないんだぞ!」
『ツンデレかよ』
「…双熾と何を話していたんだ?」
彼女かよ。
『昔の話してた』
「ほう、私を混ぜないとはなかなかのドS!快いぞー!」
『…好きだったなぁ、眼鏡掛けてた頃の蜻蛉』
なにその仮面。どこ見てるのか分かんない。いや、ごめん嘘うそ。現在進行形でがっちり目が合ってた。
違うんだって、今の蜻蛉が嫌いとかじゃなくてさ、
『わ…私が、眼鏡萌えなだけよ!』
そ、そんな泣きそうな顔しないでよ。私が悪いみたいじゃないですか。まぁ、結果的にはそうなんですけど!
『好き!ちゃんと好きだから!』
目に見えて表情が明るくなった。
「そうかそうか、名前はそんなに私が好きか!従順な名前も良しだな!」
前言撤回、なんだこいつ。
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110330
俺、ポニーテール萌えなんだ…。