『ヒメコの作るお菓子はやっぱり美味しいなぁ』
「遠慮せんと、もっと食べぇ!」
『ボッスンは食べないの?食べちゃうよ?いいの、ねぇ!』
「どないしたんボッスン、そわそわしとるで」
スケット団の部室、それぞれが自分の定位置で寛いでいる。
「名前さ…昨日の放課後なにやってた?」
『昨日の放課後?あぁ、一年の子に呼び出されてたかな』
「それで?それだけか?」
『いや、告白されただけ。そんなこと気になってたの?』
ガチャン、と机からペン立てが転げ落ちた。
「ほんま!?」
「お前、やっぱりモテるな!憎いくらい羨ましいぜ!」
『手紙貰った、これ。なかなか古風なことしてくれるよね』
「どれどれー…差出人の子!新入生の中でイケメンゆうて有名な子やんかぁ!どうやった?」
『あー、確かにイケメンだったかな』
「んでんで?返事は!?」
『いや、返事は!?じゃなくてさ君ら…あの、ほら、後ろの…』
─あの子、泣きそうな顔してるから。
「「あ」」
『…抑えてやって』
「この際ハッキリしようぜ」
「せやな」
『なんでだ!!!』
深刻な表情になった二人に、本格的に焦り始める名前。なにを言う気だ。これ以上あの子、もといスイッチの心を抉らないでくれ!
「…なんで付き合ってんだ?」
てめぇ、ボッスン。後で覚えてろよ。言葉を発する度にスイッチが机からペンやらノートやらを落としまくっていることに早く気付いて欲しい。豆腐メンタルなんだから。
『好きだから』
「どこが?」
『全て』
「性格、とかあるやん?」
『例えスイッチの性格が歪んでたり、女々しかったとしても、私はスイッチを好きになる』
「(女々しさ発揮中だけどな)」
「気になってたんやけど、声が聞けへんでも名前は良いの?」
『声…別に気にしたことないよ』
他の3人は唖然とした表情で名前を見詰めている。スイッチに至っては椅子から立ち上がっている。
『声が聞こえなくても、ちゃんと考えてることは発言するし、思ってることは伝わってくるから。声なんて、スイッチの一部でしかないんだよ。私はそこも魅力のひとつだと思うね』
「…お前、すげぇな」
「……ほんまやで」
『言ったでしょ?どんなスイッチも好きになるって。…私って楽しみは後に取っておくタイプだから。それまで私がスイッチに飽きなければの話だけど?』
したり顔で笑う名前。
『ね、スイッチ…って、え…?泣いて……なんで泣いてるの!?』
〈うっ…名前〉
『うっ、じゃないから!』
スイッチは眼鏡の下から目元を手で押さえながら、肩を震わせていた。名前はソファから立ち上がり彼に駆け寄る。
『いい歳なんだからさ』
〈…俺も名前と同じくらい、いやそれ以上に名前が好きだからな〉
『はいはい』
〈絶対、俺に飽きさせないから〉
『期待してる』
〈好きだ!〉
『分かってるって』
「…お前ら、お似合いだわ」
「せやな」
まぁ、これでいいか。
そう思った名前であった。
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120318