―ピンポーン
『やぁ、ユウスケ』
「どうした名前、ヒデノリなら今はいないぞ」
『私の話を聞いてよ、ユウスケくん』
「うん、まぁ良いけどさ…」
大学内の友人であるユウスケの部屋に半ば強引に入れてもらった。…せっかくの休みにごめんね。ご丁寧に麦茶まで出してくれた。
『あ、ありがとう』
「…なんでよそよそしいんだよ」
『だ、だって男の子の部屋にくるなんて慣れてないし…』
「ヒデノリの部屋に入り浸ってるくせにか」
『言い方が悪いよ!ヒデノリは良いんだよ、そんな不純なこと考えてなさそうだし!』
「ばっかお前、あいつは男子高校生だぞ!俺より油断ならないだろ」
油断ならないってお兄さん、あんたの弟でしょう。べ、別にヒデノリならなにされても良いもん。
『…でさ、あのね』
「そんなに深刻なのか?」
『私にとっては死活問題だもの』
「ふーん」
『………ヒデノリって彼女いるの』
「ブハッ!」
ユウスケは飲んでいた麦茶を吹き出した。なんで!こっちは真面目なんだけど!
「知るか、本人に聞けばいいでしょ」
『だってだって!いつも同じ可愛い女の子と一緒にいるのを見掛けるんだよ!西校の子!』
「あー…あいつも隅に置けないな。もう諦めろ、な?」
『や、やだー!』
「まだ彼女だって決まった訳じゃないしさ、うん、だから泣くなよ」
『…ずび』
その時、玄関が開く音がした。
「帰ってきたんじゃない?」
『なんてタイミング』
「ほれ、直接聞いてこい」
『私を追い出す気なの!?』
「振られたら慰めてあげるから」
『う、うえーん』
グイグイと背中を押され部屋から出された。こんなのただの厄介者扱いだ。
「名前さん?」
『ひ、…ヒデノリ』
「…今日は俺じゃなくて兄ちゃんに会いに来たんですか?」
『へ?』
「って名前さん、もしかして、な、泣いてるんですか!?」
『えっ!いや、これは…』
「来てください」
えっ。言葉を返す隙もなくヒデノリの部屋まで手を引かれ連行された。と、とりあえずこういう時は正座だ。ヒデノリは体育座りをしていた。可愛い。
「単刀直入に聞きますけど」
『は、はい』
「…名前さんは俺が好きなんじゃないんですか?」
『え?それって、ラブ?ライク?』
「……ラブです」
『な、なんでそんなこと…』
「…俺が名前さんを好きだからです」
なんでそんなこと聞くの…え、それより今なんて言ったの。好き?ヒデノリが?私を?
『ラブ?ライク?』
「…ら、ラブです!」
『うっそだぁー』
「嘘じゃないっすよ!もう!」
もう!だって!この子はもう本当に可愛い!この少し怒った表情はなかなか見れないなぁ。稀少価値。
『へぇ〜、そうか。ヒデノリくんは私にラブなのかぁ…』
「…………」
『私もヒデノリラブだよ』
私なりの最上級の笑顔でそう言えば、彼は目を見開いた。
「う、嬉しいです」
『私も』
「…名前さん、いつも俺に会いに来てくれるから少し自惚れてたんです。でも今日帰ってきたら、兄ちゃんの部屋から半泣きで出てくるし」
『ユウスケに、ヒデノリに彼女がいるのか聞いてたの』
「は?」
『ヒデノリが黒髪の女の子と一緒にいるのをよく見掛けてて…ね?』
「あ、…名前も知らない子ですよ」
私はヒデノリの返答に驚きを隠せなかった。名前も知らないのに追いかけっことかしちゃうの?凄いね、最近の高校生ってのは。
『まぁいいや。えへへ、ひと安心』
「名前さん、俺ってこう見えて嫉妬深いんです。たとえ自分の兄でも嫉妬しますよ?」
だから、あんまり俺以外の男と話しちゃダメですよ。
ご安心ください。
『もうヒデノリ以外見えません』
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120405
ヒデノリの「兄ちゃん」呼びがたまらないです。