『ヤスノリちゃーん!お疲れさま!』
「名前、ちゃん付けはやめろって」
部活で帰りが遅くなる日は、バイト終わりのヤスノリと一緒に帰る。偶然にも私の部活がある日と彼のシフトが被っているようだ。
『今日は儲かったー?』
「うん」
『即答ですね』
「ごめん、適当」
『あ、そういえばヤスノリと同じバイトの…黒髪の男の子がいるじゃない』
「タダクニ?」
『多分タダクニ君。その子この前、河原で女子にボコられてたよ』
西高の女子に、一応そう付け加える。見掛けたときはびっくりしちゃった。結構本気だったから。
「それ、本当だったのか」
『バイト中にこんな話してたの?』
「うん。モテるかどうかっていう…」
モテるかどうか。最近の男子高校生はモテ自慢をしたがるのだろうか。むしろ恋ばな?なんか違うな。そんなことよりも私は、歩く度に揺れる彼の髪の毛のハネている箇所が無性に気になっていた。さ、触ってもいい?
『えーい』
「こら、やめなさい」
『ごめんなさい』
こっそり手を伸ばしたら、ベシンと軽く叩かれた。まだ揺れてる。
『…あ、ヤスノリはモテるもんね』
「モテるよ」
『今日ね、後輩の子にヤスノリのアドレス教えてくださいって言われたよ。なんで私に聞くんだろうね』
学校でも、割かし一緒にいることが多いからかな。
「……で、名前は教えたの?」
『教えてないよ』
「え」
なんでそんな驚いた顔するの?もしかして教えた方が良かったかな?あ、後輩の彼女を作るチャンスだったんだ。もう私ったら。
「色んなこと考えてるようだけど全部間違ってるからね」
『なんと』
「勝手に年下好きするのやめてよ」
『口に出てたみたいですね…私は個人情報を勝手に教えるのはどうかと思ったんだよ。ちゃんと自分で直接聞きなって言ったもん』
「……あぁ、そういうこと」
『もちろん』
胸を張ってそう言うと、ヤスノリは少し肩を落としたように見えた。
「…まぁ、聞かれても教えないけど」
『え?なんで?可愛い子だったよ?』
「女子のアドレスは要らないよ。連絡取ることないし」
『そうかもしれないけどさ…でも私はアドレス知ってるよ?もしかして変えた!?』
「はぁ…本当に鈍感だよね。しかもアドレスは変えてないし」
あ、そう…良かった。黙って変えられてたら流石に泣いてた。でも、そういうことってたまにあるよね。
「いくらモテても、それが好きな子じゃなかったら意味ないよ」
『うん?うん、そうだね?』
「だから、それが名前じゃないと嬉しくないって言いたいんだけど」
ほんとにバカだな、半笑いでそう言われた。えーと?
『その心は?』
「名前が好きなんだよね、俺」
『えっ、うそ、まさかドッキリ…』
「なんのために俺がこの日にシフト入れてるか分かる?」
『わ、わかんない』
「名前と一緒に帰れるから」
一年の頃から好きだったんだよ、なんて、そんなまさか。
『私、ヤスノリのこと、そういう意味で好きなのか分からないよ…?』
「知ってる。これからは学校でもグイグイ行くから、よろしくね」
片方だけ上がった口角に、こいつはこう見えて実はSなんだなと思った私なのですが。
『……ほだされそう』
頑張ります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
120407
二人は揃って中央高設定。
ヤスノリは本当にモテそう。