〈………〉
「「喧嘩した!?」」
05
昨日はあれから名前を追い掛けたが、遠回りをしたのか同じ通学路にはいなかった。朝、迎えに行ってみても名前のお母さんに「もう家を出たけど、今日は一緒じゃないの?」と言われただけだった。
「もう昼休みじゃねぇか」
「完璧避けられとるやんな」
〈…………〉
何回かC組を覗いてみても彼女の姿はなかったのだ。
「部員の恋愛話なんて聞きたくねぇけどな、相談に乗ってやろう」
「せやで、話してみぃ」
〈…いいのか?〉
ボッスンはともかく、ここには女子のヒメコがいる。こういった類いの話は得意だろう。それから俺は、昨日の名前とのやりとりを事細かく話した。
〈スイッチなんか嫌い、と…〉
「自分で言って落ち込むなよ」
喧嘩よりも、名前のその一言が何度も脳内で反響していた。
「そら名前も怒るんちゃうん」
「…お前も一応女子なんだな」
「一応ってなんやねん!女子や!」
〈ヒメコ、続けてくれ〉
「自分ばっか好きって言うたんやで。名前の気持ちは考えたんか?」
〈いや、〉
「まぁ…仮に、名前がスイッチを好きならその気持ちを否定したことになるもんな」
「結構前に結城さんと買い物に言ったことも事後報告やったやん。それでも名前は怒らんかったやろ?スイッチを信用しきってんねん」
そうか、そうだった。二人にありがとうと行ってから再びC組に向かった。
小田倉君に聞いたところ、名前は朝から保健室にいるらしく、足早に保健室にやってきた。3つあるベッドの内、1つだけカーテンが閉じてある。そのカーテンを静かに開けた。
〈名前〉
『………つめた』
横になっている名前は熱でもあるのだろう。上気した頬がいやに色っぽく見える。その頬に触れると、俺の手が冷たかったのか体をビクリとさせた。
『………ス、イッチ?』
〈あぁ〉
『……あの』
〈…昨日はカッとなってしまってすまなかった。名前の気持ちを考えていなかった〉
上半身を起こした名前の目線を合わせるようにベットに腰を降ろした。すると名前は、おもむろに俺の首に腕を回して抱き着いてきた。普段、彼女からこんなことは一切しないので尚更驚いた。
『…私、スイッチが私以外の女の子と一緒にいるのが嫌だよ。それがたとえ結城さんでも嫌なんだよ』
〈あぁ〉
『嫌いなんて言ってごめんなさい、ちゃんと…私も大好きだから』
彼女の背中に手を回すと、より一層強く抱き締められた。熱のせいなのか、行動も言動も積極的なものだった。俺の首にうずめた顔は真っ赤なのだろうか。見たい。しかし我慢だ、我慢。
〈俺は愛してるよ〉
『…なんでそういうことをサラッと言っちゃうかな』
〈具合はどうだ?〉
『……よくない』
彼女は、今日はお母さんが出掛けてるのと弱々しく言った。
〈そうか、じゃあ一緒に帰ろう〉
『?』
名前を安心させるように微笑んでから、彼女の華奢な身体を抱き上げた。
『…あ、えっ?』
「………」
『パソコンを閉じてるもの!』
これから名前の家で、彼女を看病しようと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
120425
喧嘩したことを後悔した彼女は、どう謝るかで知恵熱を出した。