「名前ー!本当にごめん!」
『……え、なにが?』
目の前で両手を合わせ謝罪の言葉を述べる祐子ちゃん。珍しく、彼女は朝からテンョンが低かった。その理由も、この謝罪が何に大してなのかも私には到底見当がつかない。
「私、名前が夏樹くんと付き合ってるなんて全然知らなくて…」
『うんうん……え?』
休み時間、ユキとハルとの会話に相槌を打っている。ユキのおばあちゃんが入院して、色々と大変なことが多いらしい。
「俺ら、料理できないからさ」
「それは大変だな」
『夏樹!』
教室の前側の扉に目を向ければ、名前が立っていた。そしてそのまま俺の席まで来る。最近、彼女がこの教室に来ることが多くなってきていて少し嬉しい。
「どうした?」
『どうしたではなく…』
「顔、赤いけど」
『夏樹のせいだよ!』
え、俺?なにか心当たりはないのか、彼女の目がそう言っている。
「あぁ、昨日の」
『それ!』
「駄目なのか?」
昨日の放課後、一緒に帰ろうと名前の教室まで行くと、彼女は一人で机に突っ伏して眠っていた。
『なんで、ちゅ、ちゅーしたの』
「寝顔が可愛かったから」
『かわっ、……しかも、人に見られてるし』
「そう」
別に良いだろ、と言ったが彼女の場合はそうではないらしい。
『祐子ちゃんに謝られた』
「良かったじゃん」
『まぁ…』
「結果オーライだろ」
『って!そうだけども!』
まだ名前は食い下がってくる。彼女はこう見えて意外と頑固で、なかなか自分の意思を曲げないところがある。そこも良いところなんだけどな。
『…恥ずかしいもん』
「ぐだぐだ言ってるとまた口塞ぐぞ」
『…夏樹ってさ、たまに男らしいこと言うよね』
いつもは男らしくないんだろうか。最後は名前が折れたようで、「恥ずかしい」と呟いて自分の教室に戻っていった。
「見てるこっちが恥ずかしいし、ここは教室だし」
「あぁ」
それは半分わざとなんだけど。このクラスにも名前が好きだって生徒がいるらしいからな。予防だよ、予防。
(夏樹、携帯光ってるよ)
(名前からメールだ)
((そんな夏樹も好きだよ!))
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
120622
夏樹ちゃん絶対モテるよ…
短髪夏樹ちゃんモテまくるよ…