『あ、祐子ちゃん』
「名前!」
『あのね、』
聞いて欲しいことがあるんだけど。私の控えめな言葉は友人の祐子ちゃんの言葉に重なって消えてしまった。ちなみに、この日の彼女は何故か朝からテンションが高かった。
「名前も夏樹くんが好きなんでしょー?」
『………へ?』
「昨日二人で歩いてたの見たよ!良いじゃない、私は応援するよ!」
『あ、いや、だって…え?』
「私のことは心配しないでいいのよ!告白するとかその場のノリだし!」
しかも私はそんなに夏樹くんのこと知らないし!楽しそうに喋る彼女に言葉が出ない。あんたのそのノリのせいで私は昨日悩みっぱなしだったんだけど!
「でも名前には難関そうねぇ…夏樹くんって美人好きそうじゃない?」
『……う、うん?』
「あんたはちんちくりんだから…真田くんとか相性は良さそうだけどね、仲良し兄妹みたいで」
『…ち、ちんちくりん』
「ていうかさ、夏樹くんって同じクラスのえり香って子と付き合ってるんでしょ?」
『はぁ!?』
私が普段からあまり大きなリアクションをとらないからか、祐子ちゃんが驚いている。でもさ、これは大声出ちゃうよ。そんな噂、私にまで回ってきていないのに。
「でも噂だよ?まぁ美男美女だから見た目も映えるよね。元気だしなよ?」
彼女のことだから、励ましているつもりなんだろうけど。とりあえず祐子ちゃん、空気読めてないよ!「悲しい話はさて置いて、お昼にしましょ」だなんて、勝手に悲しい話にしないで欲しい。ちょっと手を洗ってくる、と言い訳をして例の彼のクラスに足を運んだ。
『…夏樹』
「うわ、お前なんでそんなに元気なさそうなの」
うわ、って!そんな夏樹は窓際の席をいくつかくっつけて、いつもの三人揃って昼食中。近くにあった誰も座っていない椅子を適当に拝借した。
『夏樹ってさ、美人が大好きなの?』
私が投げ掛けた質問に、ユキくんは飲んでいた牛乳を吹き出し、夏樹は咳き込んでいる。そんなに驚くことでしょうか。あ、ハルくんはいつも通り。
「げほ、…なにがあったんだよ」
『祐子ちゃんに言われた』
「確かに夏樹は美人好きそう!」
「…ユキ」
夏樹に名前を呼ばれてハッとしたユキくんは申し訳なさそうに肩を竦めた。
『名前にはユキくんが相性良さそうだね、とも言われた…けど、ね』
「……ユキ」
「えっ、俺?」
完全にユキくんに流れ弾が。理不尽に夏樹に睨まれているから可哀想。なんだかごめんなさい。
『私って…そんなにちんちくりん?』
「名前、背は小さいー!」
やっとハル君が会話に入ってくる。まぁ、確かに四捨五入して180cmと150cmの壁は高いかもしれない。
「脱いだら凄い」
「え!?」
『ユキくん、簡単に釣られないでよ』
「あっ、名前!」
後ろから、いきなりガバりと。普段からナチュラルに抱き付いてくるハルくんは、今目の前にいる。しかもなんだか良い匂いも。
『えり香!』
「なんだか久しぶりね、最近は名前に会えなくて寂しかった!」
『うん、私も』
「やだ名前可愛い!あ、私先生に呼ばれてるんだった」
またね、教室を出ていくえり香は本当に美人だ。しかも巫女というオプション付き。実は私は彼女と仲が良かったのだ!しかし同時に今の悩みの種なのも確か、ですが。
『えり香、』
「仲良いよな、お前ら」
『…と、夏樹が付き合ってるって噂があったんだけど』
「「はぁ!?」」
声を揃えて先程の私とそっくりな反応を見せる夏樹とユキくん。
仲良いよな、お前ら。
「いや、ないだろ普通に」
『……美男美女だって』
「だから名前ちゃんはさっき、美人が好きなのって聞いたんだね」
さすがおばあちゃんっ子ユキくん。ハルくんは頭上にクエスチョンマークを浮かべているけども。
「あのなぁ、噂は所詮噂なんだよ。んなもん一々気にすんなって」
『……でもでも、夏樹は美人が好きなんでしょ?』
「誰が好きだって言った」
『じゃあ可愛い子?私、美人でも可愛くもないよー…』
「あー」と頭を掻きながら何か考えている夏樹。今思えば、自分でも凄くめんどくさいことを言ったと思う。分かってる、そんなこと分かってはいるんだけど。
「……名前が自分をどう思っていても、俺は名前が一番だから」
だから心配すんな。
そしていつも通り頭を撫でられる。あれ、もしかして夏樹くん照れてる?髪の毛に遮られてあまり見えないが、どことなく顔が赤い気がする。あぁ、やっぱり大好きだなぁ。
「夏樹、照れてるー!」
「うっせ!」
『私、夏樹のためにもっと頑張るから!まずは手始めに背を伸ばすね!』
「なんか違…もうそれでいいよ」
(夏樹はさ、そのままの名前ちゃんが大好きなんだよ)
(おいユキ!)
(わ、私もだよ…!)
(いいじゃん、凹凸カップル)
(…ユキくんって天然たらしだよね)
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きっとユキは天然たらし。
理由は、おばあちゃんっ子だから。