つりたま | ナノ





『夏樹ってさぁ』

「ん?」

『なんでそんなにかっこいいの』


唐突な質問を投げ掛ける。私は後ろにしゃがんで釣りをする夏樹を眺めていた。時刻はもう夕方だろう。江ノ島の海は夕日でオレンジ色に染まっている。


「…どうしたんだよ、名前」


私は夏樹と目を合わさずに海を見ている。きっと今は凄く不機嫌そうな顔をしてると思う。


『祐子ちゃん、夏樹が好きなんだってさ』

「へぇ」

『今度ね、告白するんだって』


また同じくへぇと答えた夏樹は、釣竿から目を離さない。


『祐子ちゃん、とても可愛い子だよ』

「興味ねえし」

『他にも沢山いるよ。ミユキちゃんに伊代ちゃん、サキちゃんもだよ。みんな可愛いんだよ』

「…何が言いてえの?」


また釣竿から目を離して、後ろの私を見てくる夏樹。彼の表情はさっきと変わらない。


『あんな可愛い子に告白されたら夏樹もコロッといっちゃうよ』

「ははっ、俺がそんなんでコロッといくかよ」

『そんなの分かんないよ』


私にとっては重要なことなのに、軽くははっと笑って返すとかムカつく。そんな姿もかっこいいから余計にムカつく。


『みんな、夏樹の外見しか見てないのに好きだって。夏樹が釣り王子だなんて知らないくせに』

「……王子って」

『そう呼ぶと夏樹が嫌がることも知らないのに、かっこいいからってさ』


私だって本当は分かってる。こんなのはただの自分勝手な独占欲だ。人を好きになることを止めさせる権利なんて誰にもないもの。


「俺だって、そんなに可愛い子ならコロッといくかもなぁ」

『や、やだ!!そんなの、絶対やだ!夏樹は私の…』


そこまで言い掛けて止めた。私は本当に自分勝手だ。夏樹が選んだことに口出し出来る訳もないのに、な。


「その言葉の続き、言ってみろよ」

『……なつき』

「夏樹は、私の…なに?」


そう、この顔。夏樹の意地の悪そうな笑顔。私がなんて言いたかったか、とっくに分かってるくせに。首を横に振っても彼は動じない。


「ちょ、ちょっと、ごめんって!だから泣くな」

『………へ?』

「ごめんな、意地悪しすぎたな」


目元に手を持っていくと、確かに涙が出ていた。焦ったような夏樹が私の前に屈み込んでお兄ちゃん属性を発揮する。なんでそんなに慌ててるの、泣かせたのは夏樹でしょ。


『なつき、…っ離れてかないで』

「安心しろ、離れてって言われても離れてやんねえよ。俺は名前のものだからさ」

『…もう、夏樹だいすき』


そのままの体制で夏樹に抱き締められる。私が顔が見たいと言うと、「顔、絶対に赤いから無理」だって。体制は変わらずに、夏樹は口を開いた。少し動く度に彼の髪の毛が首にあたってくすぐったい。


「俺達、付き合ってるんだよな」

『え?うん…』

「名前のその友達は知らねえの?」

『夏樹が、嫌がると思って』

「嫌がんないっつの。色々と安心することが増えると思うから」


私を落ち着かせるように、頭を二回程撫でて立ち上がる。立ち上がるときに私の手を掴んできたから、私も必然的に立ち上がることになった。


「そろそろ帰るか」

『うん、暗くなっちゃったね』

「送ってく」


夕日がすっかりと沈んでしまった中、二人並んで歩く。私の家と夏樹の家はそう離れていない。だからわざわざ送らなくても大丈夫なのに。以前そう伝えてみると、お前は全然分かっていないと言われたことは記憶に新しい。


『ここでいいよ、もう玄関見えてるから』

「あぁ、じゃあな」

『夏樹』


ポケットに手をつっこんで、去ろうとする夏樹は素直にとてもかっこいいと思った。そんな彼を呼び止め、一言伝えたい。


『夏樹は私だけの王子様だからね』


一瞬だけ目を見開いた夏樹がつかつかと近寄ってきたと思えば、私のオデコに軽くデコピンをかましてきた。



(恥ずかしいこと言うなよ…!)
(照れてる!)
(て、照れてない!)




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宇佐美夏樹は絶対に女子にモテるだろシリーズ。


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