「少し聞いて欲しいんだけど…」
我が家に神妙な面持ちでやって来た彼は、タダクニくん。一応恋人です。
「一応って…」
「で、なにかな?相談?」
話の続きを促すと彼は「でもこんな話を名前にするのもな…」と一人で勝手に悩み始めた。さっさと話してもらいたい。
「いいから、話して」
「……高校生ってさ、なにかと多感な年頃だろ?男子たるもの、そういう会話を普通にすると思うんだよ」
「う、うん」
「あいつら、俺に一切そういう話をしてこないんだ」
「ヨシタケくんとヒデノリくん?」
「俺がいない時は話してるかも…」
こくりと頷いたこの(多感な)男子高校生は、どうやら自分だけが仲間外れにされているかもしれないと思っているらしい。彼は深く考えすぎてしまうタイプだから。
「気を使ってるんじゃない?」
「なんでだよ」
「だって…タダクニってエロ本とか持ってる?」
「も、持ってねえよ」
「だからじゃないかな」
タダクニはエロ本だとか、そういう男子高校生の必須アイテムを所持していない。なんとなく分かってはいたけど、今さっき本人が暴露してくれた。そんな彼に周囲は気を使ってくれてるんだと思う。
「読んだことは?」
「…公園に落ちていたのをチラッと」
「あ、ちょっと待ってて!」
名前ちゃんは良いことを考えてしまいました。きょとんとしているタダクニを残して、部屋を出る。
「ただいま!」
「え、おかえり…?」
「こちらをどうぞ」
「…これは」
3分程度で戻ってきた私は、タダクニにあるものを渡した。詰まるところのエロ本です。
「お兄ちゃんに借りてきた!」
「お兄さん…」
「よかったら貰って、って言ってたよ!お兄ちゃんとは趣味が合わないと思うけど我慢してね」
お兄ちゃんはSMモノが好きみたいだから。タダクニは受け取った本をパラパラと捲り始めた。と思ったら、パタンと閉じた。
「………過激すぎた」
「あ、そう」
「申し訳ないけどお返しします」
私の手元に返されたこの本の中身を少し確認しようと表紙を捲ろうとしたら、タダクニに両手を握られた。
「俺、思ったんだ」
「うん?」
「あいつらと違って俺には彼女がいるし、こんなものは必要ないんだ」
私の手を握る力が少し強くなった。
「比べものにならないくらい、俺には名前の方が魅力的に見えるから」
珍しく真っ直ぐな瞳に見つめられる。この雰囲気に流されそうになりながらも、これはエロ本の話なんだということを思い出して笑みが溢れてしまう。
「私も、そんなタダクニが大好き」
だから君にはそのままでいて欲しいな、と私は思っているよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
120604
アオイ様へ!
タダクニで甘々ギャグということでしたが…こ、これは甘いのか?
最後で無理やり甘い方に持ってきた感が否めませんが、よければ受け取ってやってください!
お兄ちゃんはユウスケさんと同じ大学に通っているという裏設定があったりします。