企画 | ナノ





読み掛けの本を手に取ったところで、インターホンが鳴った。時計の針は夜の10時を指している。


「はーい」


ここが妖怪に対するセキュリティが万全な妖館であるからと、無用心に鍵も閉めていないドアを開けた。そう、セキュリティが万全なのは『妖怪』に対してなのだ。


「ははは、主人が帰ったぞ!」


先祖返りには当マンションのセキュリティなど意味を為さない。まぁ、その先祖返りを守るためのセキュリティですもん。


「蜻蛉さん、お帰りなさい」

「土産がある!」


彼の言う土産には一切期待してないけれど、立ち話もなんなので部屋の中へ招き入れた。確かこの前のお土産は荒縄だった。さて、今回は少しはまともな物だろうか。


「受け取れ」

「あ、ありがとうございます」


受け取った箱にはなかなかの重量感がある。中身を恐る恐る確認した。


「こ、これは…」

「以前、テレビを見て食べたいと言っていただろう」


そこには有名ブランドのプリンが数個入っていた。そういえば、番組の特集を見て食べたいと呟いたかもしれない。


「もしかして、覚えていてくれたんですか?」

「主人は下僕をよく見ているものだ」


この人は素直じゃないな。でも彼のこういうところが堪らなく大好きだったりするんです。


「明日、朝の便で発つことになっている」

「ではもうお部屋に戻ってお休みになりますか?」


蜻蛉さんは、なにかを言おうとしたようだが静かに口を閉じた。全く、本当に彼は素直じゃない。だから私が助け船を出さないと。


「私は蜻蛉さんに会えない間、とても寂しかったです。蜻蛉さんは平気でしたか?」

「…私も、まぁ寂しかったぞ」


私とは視線を合わせずに、先程より小さな声で蜻蛉さんは答えた。


「ではその分の埋め合わせをしませんか?」


こんな時間ではあるけれど二人でプリンを食べて、テレビを見て、シャワーを浴びて、二人で寝て、起きたら二人で朝御飯を食べましょう。


「どうですか?」

「名前がどうしてもというなら、良いだろう!」


お願いします、笑顔でそう言えば蜻蛉さんは満足そうに笑った。

これから私達の長い夜が始まる。




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120604

えん様へ!

素直になれない蜻様を甘やかすお話です。この二人の関係が不明瞭です(笑)
ご期待には添えましたでしょうか?
連載とは違って、蜻蛉に対して敬語の一枚上手な主人公にしてみました!
よければ受け取ってくださいませ!


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