坂田家 | ナノ





「名前ちゃーん!」


食器を洗っていると、洗面所から大声で名前を呼ばれる。そこには銀兄がいつもの目立つ色のスーツを着込んで鏡を見詰めていた。


『俺ってかっこいいよな、って?』
「うんうん…って違うからね!?」
『分かってるよ。髪型でしょ?』
「ん」
『こっちむいて』


坂田兄弟の特徴の大半を占める天然パーマとは実はなかなか厄介なもので、髪型のセットが難しい。八兄は気にしないけど、銀兄は弁護士だから。少しはカッコつけないと説得力もあってないようなものだ。


「名前は器用だなー」
『銀兄は天パだねー』
「うるせー」
『むぐっ』


とりあえずワックスとアイロンで何とかする。前髪を7:3で分けているのが普段の銀兄だ。これだとデキる男って感じがする。個人的に。


『完成』
「サンキュー」
『はい、そして眼鏡掛けて…おぉ、弁護士っぽい!』
「ぽいじゃなくて、そうなの!」
『そうだった。銀兄の眼鏡って伊達でしょ?』
「あぁ、そうだけど」
『眼鏡って弁護士らしいもんね』
「それもあるだろうな」


いつもの狡い笑みを見せ、ネクタイを差し出してくる。くれるの?あ、違うのか。頷いてから素直に結ぶ。


「なにしてんだお前ら」
『八兄おはよう』
「新婚さんごっこ」
「誰が許すか」
『銀兄、言うタイミングが無かったけど、実は時間が結構ヤバイよ』
「それは素直に言ってよ!?」


いってきます、慌ただしく家を出る銀兄はなんだか学生のようだ。


『八兄のそれ寝癖…』
「ん?」
『…天パか(なんでもない)』
「台詞と()が逆だろうが」
『もがっ』


正直これは私が悪いです。


『八兄って視力悪いよね』
「裸眼だと生活に支障をきたすくらい悪いな」
『でも銀兄は視力良いよね。なんでわざわざ伊達眼鏡掛けてるんだろ』
「名前が原因だろうな」
『えー?』
「結構前にお前が“八兄の眼鏡かっこいい〜!”とか言っただろ。それからだよ。あいつが伊達眼鏡掛け始めたの」
『言ったような言わないような』


多分言ったんだろうな。私ってこう見えて眼鏡男子が大好きだから…。そんな些細な台詞に影響されてたなんて、そう思うと自然と口角が上がってしまう。


『銀兄って乙女だね』
「あー、うん」
『ご飯にしよっか』









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