私は雨が嫌いだ。
このあたりで私が何故に坂田家に居候しているかについて触れておこうと思う。私には両親がいない。いや、正しくはこの世にはいない。
10年前、両親は私を残して居なくなってしまった。雨降りの夜、交通事故だった。
両親が生きていた頃も、夜遅くまで共働きで家には居なかったからあまり実感が無かったのは事実だけど。でも心のどこかにぽっかりと大きな穴が開いたような、計り知れない虚無感を感じていた。そんな形でも愛されているのは分かっていたし、私も家族を想っていた。
そして親戚をたらい回しにされるでもなく、ただ行き場を無くしていた私を家に置いてくれたのが八兄だ。八兄曰く、血縁関係がない訳ではないらしい。
一度に自分の大切なものを2つも奪われたのだ。それから数年の私は、この家の人に迷惑をかけないことを第一に生活してきた。一応、今もそのつもりだけど。そんな私に八兄は「もっと甘えなさい」って言ってくれた。
私は雨が嫌いだ。
『……傘なんて持ってきてない』
天気雨だろうか。気分屋で、降ったり晴れたり。お天気お姉さんは一日中晴天って言ってたのになぁ。ふざけんな。スーパーの自動ドアが開いて、真っ暗な空が見える。
「お嬢さん」
「お迎えに上がりましたよ」
『……!銀兄、金兄』
「名前、傘持ってないでしょ」
『…濡れて帰ろうとしてた』
「荷物寄越しな」
『ありがとう、2人とも』
「名前は俺と相合い傘なー」
「銀兄ずるい!」
俺も俺も、金兄が自分の傘を畳んで入ってくる。私は両隣の2人の手を取り歩き出した。
「なにお前らも来てたの」
『あ、銀兄』
「銀八くん出遅れですよ〜」
「なに名前と手なんて繋いでんだよ。離せコノヤロー。若しくは俺も交ぜろ」
私はこれからもこの三人を最優先にして生きていくだろう。
『ちょ、それだと私が濡れる!』
「もう皆で濡れて帰ろうや」
『嫌だよ、双子が相合い傘しなよ!私は金兄と一緒に傘使うから!』
「じゃあそういうことで」
「「………」」
私は雨が嫌いだ。
でもそんな大切な三人と一緒なら、雨もそこまで悪いものではないのかもしれない。