坂田家 | ナノ





「ただいまー。ほれ、名前にお土産買ってきた」
『おかえりなさい八兄!お土産!』


ゴリゴリ君だー、なんて氷菓子でさえも喜んでくれるから名前は甘やかしちまうんだよなぁ。Z組のあいつらとは違うな。まぁ、名前もそうだけど。


『いただきまー……んぐッ!?』
「え、なに、どしたの」
『なななんでもないなんでもない』
「嘘つけコノヤロー、口開けろ」
『な、なんでもないもん!』
「それなら見せられんだろ」
『やーだーよー、やだやだぁ』


頑なに口を開くことを拒否する名前。もう往生際が悪いな!少し強引だが、口に指を突っ込んで無理やり開かせる。


『うぐっ』
「虫歯」
『…はひにい、わはるの』
「わかんねぇわ」


名前が持っていた食べ掛けのゴリゴリ君を奪う。


「お食べ」
『あがっ…ぐ、いひゃい!』
「今、痛いっつったろ」
『言ってませーん!気持ちいって言ったんでーす』
「お前、猿飛から変なこと教わってねぇだろうな…歯医者行くぞ」
『やだやだ絶対やだ、だって虫歯じゃないもん』
「現実を見なさい、虫歯だから」
『歯医者とか信用出来ないって。改造されるもん。自分の体は自分で何とかできるように出来てるんだよ』
「実はそうは出来てないんだよ。なんだよ、改造されるって」


銀兄が言ってた。…あのバカ!名前になに吹き込んでんだ!てかなんで信じてんの!ただでさえ名前は病院が嫌いなのに…あ、こいつにも苦手なものがあったな。

あれから、なんとか言いくるめて予約無しで治療してくれる歯医者に連れてきたものの。


『いっそ殺してください……』


いや、怖ぇよ。

俺の手を握ったままカタカタと震えている名前の瞳は淀んでいた。


「名前さーん、こちらです」
「おら、呼ばれたぞ」
『……………』


ここまできてやっと観念したのか、名前は素直に立ち上がり歩いていった。俺の方に振り返って口パクで「さようなら」って言うのはやめなさい。どうやら治療する覚悟ではなく、戦場にでる覚悟だったようだ。

小一時間が経ち、お大事にという決まり文句が聞こえてから名前が出てきた。なんでこの子、目元を手で覆ってるの。


「会計したから帰るぞ」
『……』
「うおっ」


いきなり後ろから抱き付いてきた名前に驚いて、前につんのめる。その状態のまま歯医者を出た。


『…生きてるよ』
「見りゃわかるわ。頑張ったな」
『……うん』
「じゃあ帰るか」
『八兄、帰りにゴリゴリ君買って』
「懲りろよ!」










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