その日は携帯がならなかった。
寂しいな奴だなとは思ったが、それよりも彼からの連絡が無いことが何よりも苦しかった。相手は大学生だし、二人きりで会うことも出来ない。一日の終わりに今日あったことを電話で話すのが、唯一の繋がりであったのに、
(なんであんなこと言っちゃったんだろう…)
事の発端は昨日のことだ。昨日もいつもみたいに電話で話してた。でも彼は眠そうで、私の話をきちんと聞いてないように感じてしまった。今考えれば、忙しい中いつも時間を作ってくれるのに申し訳ないと思うのだが、それでも会えない不安が増して、もしかしたら私になんて興味ないかもしれないって、思ってしまった…。
(考えてたら涙が出てきた…)
私は溢れだしそうな涙を我慢した。そして、また昨日のことを思い出す。あのあとだんだん口論になり、電話を切ってしまったのだ。
わたしは焦っていたのかもしれない。大学には私なんかより綺麗な人がいっぱいいる。しばらく(少なくとも二ヶ月は)会っていないのにずっと私を好きでいてくれる?不安だった。不安で仕方なかった。
でも今はそれよりも、彼のことが気になって仕方がない。酷いことを言ってしまった。彼は私よりも大人だけど、その心は脆い。大切な大切な人を傷つけてしまった。それが一番辛い。
「…郁、ごめんなさい」
呟いても届かない。自分から電話をかける勇気がでない。わたしは、彼の事になるとこんなにも弱くなってしまうのだ。
もうすぐ時計が十二時をまわってしまう。今日は諦めて、気持ちの整理が出来たらまた、電話しよう。
でも、そう思ってベッドに入ろうとしたその時、携帯の着信音がなった。時刻は零時一分。
私は電話を急いでとると、泣きながら謝った。
思い亡死か
(あなたを思って私は死ぬのだからそんなことは決してありませんから)
100310/燕樹
title by 濁声