夢を見ていた。
そこはいつもと何も変わらない教室だったけど、夢だってわかっていた。人のいないいつも通りの教室には時計の音と、僕の心臓が動く音だけが響く。そして、それが耳から離れない。あぁ、なんてうるさいのだろう。
ふとピアノの音がした。
振り返っても何もない。誰もいない。なんとなく、音楽室に向かうためにドアをあけた。
しかし、そこに廊下なんてものはなく、ただひたすら闇が続いていた。驚いて二三歩後ろにさがってしまった。
それでもピアノの音は僕に"早く来て"と促す。なんでだろう。無性にあのピアノの音のもとへと行きたい。あそこは温かい、から。だから、誘われてしまう。
でも僕の想いとは逆に漆黒の闇は僕を行かせてはくれない。何もない。何もないからこそ、それは絶望へと連れていく。
その時、ピアノの音が心なしか大きくなった気がした。やっぱり温かい。勇気がわいてくる。
一つ深い深呼吸をすると、僕はその闇に足を踏み出した。
そして、
夢は覚めた。
「颯斗くん、大丈夫?」
目を開けると、月子さんが心配そうにこちらを見ていた。生徒会室のソファで寝ていたらしい。
「うなされてたよ、大丈夫?」
「…はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
体を起こし、笑みを向ける。すると安心したのか、彼女も笑う。
「それは、何ですか?」
「え、あ!……なんでもないです…」
彼女の横には楽譜らしきものが置いてある。それを問うと、慌てて隠してしまった。
「月子さん?」
「…」
「…」
「…楽譜です。なんか颯斗くんのピアノ聞いてたら、弾いてみたくなって思って…」
夢の中のピアノが聞こえた、気がした。あの音は彼女が出していたのだろう。
「月子さん」
「…はい」
「もしよろしければ、教えますよ」
愛にお眠り
(そして、君の音に目覚める)
100221/燕樹
title by濁声