特に用があったわけではない。ただ、なんとなく屋上庭園に行きたくなっただけだ。
屋上は風が強く、長い髪がそれに合わせて揺れる。大きく深呼吸をすると、オレンジ色の空がやけに眩しく映った。
その時ふと、誰かの気配がして振り向くと同じ生徒会役員である颯斗君の姿があった。
「月子さん、こんにちは。こんなところでどうしたんですか」
「えっと、特に用があるわけじゃなくてね、なんとなくここにいたいなぁって思っただけ。颯斗くんは?」
「僕も同じようなものです。なんとなく来たくなっただけです。」
「そっか」
そう言った颯斗君の顔は、どこか悲しそうで、それ以上聞けなくなってしまった。
それからは二人とも無言で、少しずつ暗くなっていく空を眺めていた。綺麗なオレンジは夜に侵食されていく。その景色が二人を悲しくされた。
「時々、」
「?」
「僕も夜に溶けてしまいたいと思うときがあるんです」
颯人君は儚げな瞳で空を見つめ、ぽつりと、でもしっかりとした口調で話す。
「でも、夜というものは完全な闇ではないんです。星はどんなに小さくても輝いていますし、…月も雲に隠れない限りそこに存在しています。決して一人にはしてくれないんですよ」
風が吹く。二人の髪が揺れる。夕日はもう落ちてしまっていた。でも向こうの方は少し色が明るい。私はゆっくりと瞬くてできるだけ優しく微笑む。
「私も」
「……」
「私も一人にはしないよ」
「…ありがとうございます」
颯斗君がふわりと笑うと、どちらともなくそっと手を繋いだ。
もどかしい指先
(あなたを守るのに私の手は小さすぎるの)
100213燕樹
企画『ふたりぼっち』様に提出。
参加させていただきありがとうございました。