「ねえ、先輩いいでしょ」
前には整った梓君の顔。後ろはベッド。非常に危ない状況だ。駄目、と危険信号がチカチカする。
「あ、梓君、駄目だよ」
「どうしてですか?明日は休みですし、僕たちは付き合っているんですよ」
「ど、どうしても!」
そういって梓君を押してみるが、びくともしない。あぁ、男の人なんだなとちょっと思ってしまった。すると、梓君はずいっと顔を近づけてきた。少しでも動かすと、キスしてしまいそうだ。ドキドキする。なんて憎らしい。
「そういう困った顔もかわいいです」
「…っ」
「…先輩、僕は先輩が好きなんです」
「…うん」
「…大好きなんです」
「…うん」
近いよ、近いよ梓君。そんな顔しても駄目だよ。なのに、梓君の瞳から目が離せない。ねえ、梓君知ってた?私は梓君が思っているよりも梓君が好きなの。梓君のことを思うと心臓が苦しいの。ねぇ、知らないでしょ。だから、そんな声で私の名前を呼ばないで。そんなふうに私にさわらないで。そんな目で見ないで。…嬉しくなってしまう。
「ねぇ、月子先輩」
「…なに、梓君」
「いいですよね」
駄目だよとは言えなかった。言う前に塞がれたから。梓君の唇に。
私は彼に弱いらしい。
飼い慣らした牙
100523/燕樹
title by にやり