「あ、風船」

突然月子が声を上げた。
見ると、色とりどりな風船を配っている人がいた。小さな女の子はその人から赤い風船をもらって、母親と楽しそうに歩いていた。

「かわいいな」
「うん。なんか、ああいうの見てると懐かしくならない?ほら、風船持ってると嬉しくなってお母さんと手を繋ぎたくなるの」

そう言われると、すぐに風船を持っている幼い月子が想像できた。片手で風船を放さないようにぎゅっと紐を掴んで、もう片方の手でお母さんの手を握っている。真っ赤なソレと同じように頬を染めて、とても楽しそうに。

「そう言われると、そうかもな」
「でしょ!」
「…月子、ちょっと待ってて」
「え」

月子から離れて、風船を配っているいる人のところへ行った。そこから赤いものをもらい、月子の元に急いだ。

「はい」
「え、わ、ありがとう」
「どういたしまして」

小さい頃掴んでいた紐は今では小さくなって今にも飛んでいきそうだった。でも月子は優しく掴み、大切に扱っていた。

「きちんと持ってないと飛んでいくよ」
「大丈夫、錫也がくれたんだもの、大切にしなきゃ」

そんなことを言われると自然と笑みが出てしまう。そうだ、俺は彼女―月子と一緒にいるだけで幸せになんだ。

「じゃあさ、月子。手 つなごうか」
「…え!!」
「嬉しくなって手を繋ぎたくなるんだろ」

真っ赤な顔。まるで風船。
紐は離さないよ。
でも優しく、出来るだけ優しく掴んでいるから。

「錫也、」
「ん?」
「手、繋ごうか」
「…あぁ」



風船
(手を繋いで歩こうか)



100428/燕樹

天野月子 風船 より





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